ETCマイレージの記事を書いたときに「10年はETCを使っている」と書きました。それだけ長く使っている装置が「2030年に使えなくなる」と言われているので、何がどう決まっているのかを一度だけ確かめておくことにしました。
調べ始めて手が止まったのは、出てくる記事がどれも同じ形をしていたからです。車載器管理番号の先頭が0なら旧規格、1なら新規格。 それで終わっている。見分け方としては正しいのですが、そこから先が無い。
そのうえで、いくつかの記事にこう書いてありました。「電波法の改正により、新しいセキュリティ規格への移行が進められており」。
これは違います。国土交通省と一般財団法人ITSサービス高度化機構(ETCの運営主体)の公式ページには、わざわざその設問が立てられていて、はっきり否定されていました。
「2030年問題」という呼び名は、公式のどこにも出てこない
まず、細かいところから片づけます。
国交省の3ページとITSサービス高度化機構の3ページ、合わせて6ページをダウンロードして全文検索しました。「2030年問題」という語は、6ファイルすべてで0件でした。
公式が使っているのは「ETCのセキュリティ規格の変更」という言い方だけです。「2030年問題」はメディアと販売店側が付けた呼び名で、それ自体は別に悪いことではありません。ただ、「問題」という語が付くと、締切のある話に読めてしまう。
実際には、締切は書かれていません。この点は後の節でそのまま引用します。
混ざっているのは、所管も法律も違う2つの話
検索していると「2022年問題と2030年問題」という並べ方をよく見ます。この2つは似た顔をしていますが、根拠にしている法律も、所管している役所も違います。
| 新スプリアス規格への移行 | ETCのセキュリティ規格の変更 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 電波法関連法令(無線設備規則) | 国土交通省が定めるETCの規格 |
| 所管 | 総務省 | 国土交通省+高速道路会社+ITS-TEA |
| 目的 | 必要周波数帯の外側に出る不要な電波の許容値 | 盗聴・改竄等の不正防止(決済情報の保護) |
| 言われていた期限 | 2022年12月1日 | 最長で2030年頃 |
| いまの状態 | 「当分の間」に延長済み | 時期は未定 |
| 対象の見分け方 | 車載器メーカー・自動車メーカーのサイトで型式を確認 | 車載器管理番号の先頭1桁/識別マーク |
ITSサービス高度化機構のよくある質問には、この設問がそのまま載っています。「新スプリアス規格への移行と、ETCのセキュリティ規格の変更は、同じ内容ですか?」という質問に対する回答の書き出しが、「この2つは異なるものです。」です。
わざわざ設問を立てて否定しているということは、それだけ混同されているということだと思います。実際、検索結果に出てくる要約の側にも「電波法に基づく法改正により、新しいセキュリティ規格への移行が進められており」と書かれていました。
電波法のほうは、2022年12月1日で止まっていない
先に、片がついているほうから。
旧スプリアス規格で作られた無線機器は、2022年12月1日以降は使えなくなる予定でした。ETC車載器もその中に入っていて、「使うと電波法違反になる」と言われていたのはこの話です。
これが変わりました。総務省 電波利用ポータル「スプリアス発射の強度の許容値に係る技術基準の改正に伴う経過措置」に、こう書かれています。
これまで、旧スプリアス規格(不明なものも含みます。以下同じ。)の無線設備については、その使用期限を令和4年11月30日までとしていましたが、新型コロナウイルス感染症による社会経済への影響等による無線設備の製造や移行作業に遅れが生じていることを考慮し、令和3年8月に無線設備規則の一部を改正する省令(平成17年総務省令119号)の附則第3条及び第5条の一部を改正し、その使用期限を当分の間、延長することとしました。
道路側からも同じ告知が出ています。国土交通省「旧スプリアス規格に基づいて製造されたETC車載器について」(令和3年8月4日・国交省と高速道路6社とITS-TEAの連名)では、令和3年総務省令第75号による改正だと書かれていて、対象は「平成19年以前の技術基準適合証明・工事設計認証(旧スプリアス認証)を受け、製造されたETC車載器」とされています。
ここで拍子抜けするのですが、「2022年問題」は既に期限が外れた話です。今も「もうすぐ使えなくなります」という書き方で残っている記事があるので、ここは分けて読んだほうがいい。
ただし、そのまま元通りになったわけではありません。総務省は同じページで、条件が付いたことも書いています。
- 旧スプリアス規格の機器は、令和4年12月1日以降「他の無線局の運用に妨害を与えない場合に限り、使用することができる」旨の条件が付く
- 旧規則に基づく技術基準適合証明等の効力も、当分の間は有効
そして「当分の間」は、無期限という意味ではありません。総務省は続けて「今後、新型コロナウイルス感染症の収束や社会経済状況等の回復を踏まえつつ、移行期限を総合的に検討する」と書いています。期限が消えたのではなく、決め直しの途中で止まっている、というのが正確なところだと思います。
セキュリティ規格の変更のほうには、そもそも締切が書かれていない
こちらが「2030年」と呼ばれている話です。
国土交通省「よくあるご質問(セキュリティ規格の変更について)」の3番目の設問が、そのものずばりでした。
3 将来実施されるセキュリティ規格の変更とは具体的にいつか?
具体的な時期は未定ですが、現行のセキュリティ(車載器、カード)に問題が発生しなければ最長で2030年頃までとなる予定です。ただし、セキュリティに問題が発生した場合は、変更時期が早まる可能性があります。
ITSサービス高度化機構「セキュリティ規格の変更」にも、ほぼ同じ文章が載っています。読み方を分解すると、こうなります。
- 「具体的な時期は未定」 … 日付は決まっていない
- 「最長で2030年頃まで」 … 2030年は締切ではなく上限
- 「変更時期が早まる可能性があります」 … 前倒しもありうる
つまり「2030年までに交換すればいい」とも「2030年に一斉に止まる」とも書かれていません。上限だけが示されていて、下限が無い。 ここが、上位に出てくる記事とだいぶ印象の違うところでした。
同じFAQには、こういう文もあります。
2 セキュリティ規格変更の理由は?
昨今の情報機器の能力向上に伴うセキュリティ脅威の増大への備えとしてセキュリティ機能を向上させるためです。現時点で、現行のセキュリティ(車載器、カード)において問題が発生したわけではありません。
そのうえで、6番目の設問には「セキュリティ規格の変更に対応しないで、従来セキュリティ対応車載器を使い続けることはできるか?」に対し、「お客様のETCでの決済情報を保護できなくなる可能性があるため使い続けることはできません」とあります。慌てる話ではないが、そのままにはできない、という位置づけです。
少し気になったのは、日付のほうでした。国交省の告知ページは平成29年10月10日付で、国交省とNEXCO3社・首都高・阪神高速・本四高速、そしてITS-TEAの連名です。そしてFAQのほうは「最終更新日:平成30年9月3日」。
2018年9月から更新されていない文書が、2026年のいま「最長で2030年頃」と言っている状態です。文書として間違っているわけではないのですが、この先の続報は公式サイトを自分で見に行くしかない、ということでもあります。
新旧を分けているのは、19桁の先頭1桁だった
ここからは実務です。手元の車載器がどちら側かを確かめる方法は、国交省が別紙のPDFで公開しています。「新・旧セキュリティ対応車載器の識別方法」(PDF)です。A4で2枚、それだけです。
| 確認方法 | どこを見るか | 新セキュリティ | 旧セキュリティ |
|---|---|---|---|
| 車載器管理番号 | 取扱説明書・保証書/セットアップ申込書・証明書/車載器本体のラベル/音声案内/連動するカーナビ画面 | 19桁の先頭が「1」 | 先頭が「0」 |
| 識別マーク(ETC専用機) | 車載器本体 | 「●●●」のマークがある | 「●●●」のマークがない |
| 識別マーク(ETC2.0・DSRC) | 車載器本体 | 「ETC2.0」のロゴがあり、「■」が無い | 「ETC2.0」のロゴと「■」がある/「DSRC ETC」のロゴ |
| 品番 | 車載器本体 | 品番を調べて、車載器メーカーのサイトで新旧を確認 | |
いちばん確実なのは管理番号のほうです。マークのほうには、PDFの注記に「車載器の型式により識別マークが描かれていない場合があります」と書かれていて、そもそも描かれていない機種があります。マークが見当たらない=旧、とは決められないということです。
管理番号は19桁で、ETC2.0(DSRC)の場合は19桁の後にC/D(チェックディジット)が付きます(ITS-TEA「車載器管理番号 確認方法」)。20桁に見えても、頭から数えて19桁が管理番号です。
以前乗っていたC43では、この番号をナビの画面から出しました。メルセデスでは「DSRCデバイスナンバー」という名前で出てきます。手順は別の記事に画面ごと書いてあるので、そちらを見てもらったほうが早いと思います。
車載器本体を直接見る場合、助手席のグローブボックスの中か、ハンドル右下などに埋め込まれていることが多い、とITS-TEAは書いています。輸入車の純正ビルトインだと、そもそも本体が手の届く場所に無いこともあります。その場合はナビ画面か、書類のほうが早い。
書類というのは、車載器セットアップ申込書とセットアップ証明書のことです。ITS-TEAのページには「車検証ファイルに保管されている場合が多いです」と書かれています。取り付けたときに渡されて、そのまま入れっぱなしになりやすい書類ということだと思います。車検証まわりを一度も開けていないなら、ここに答えが入っている可能性があります。
それでも分からない場合は、購入した販売店かセットアップ店に聞いてください、というのが公式の案内です。ITS-TEAには専用の窓口もあります(ETCお問い合わせ窓口 03-5216-3856/平日10:00〜17:00)。
ETC2.0にすれば新しい、という話ではなかった
ここは取り違えやすいところだと思います。ETC2.0のほうが後から出てきた規格なので、ETC2.0=新セキュリティだろう、と読みたくなる。ですが違います。
ITS-TEAのFAQに、この設問が独立して置かれています。
ETC2.0であれば、すべて新セキュリティに対応しているの?
ETC車載器とETC2.0車載器にはそれぞれ新・旧セキュリティの車載器があります。ETC2.0であっても、すべての車載器が新セキュリティに対応しているとは限りません。
逆方向も書かれています。
新セキュリティにするには、ETC2.0に買い替えないとならないの?
(前略)新セキュリティにするには必ずしもETC2.0に買い替える必要はありません。
つまり「ETCかETC2.0か」と「新セキュリティか旧セキュリティか」は、縦と横の別々の軸です。ETC2.0の旧セキュリティ機もあれば、ETC専用機の新セキュリティ機もある。買うときにETC2.0とだけ書かれた棚を見ても、判断材料にはならないということになります。
国交省のFAQには「ETC車載器は、従来セキュリティ対応品と新セキュリティ対応品が併売されているのですか?」という設問もあって、回答は「併売されていると聞いています(2018年8月時点)」でした。ここは正直、いまの店頭がどうかまでは分かりません。8年前の記述なので、そのまま今の話として読むのは無理があります。
交換すると決めたときに、実際に必要になるもの
ETC車載器は、買ってきて付ければ使えるものではありません。車両情報を書き込む「セットアップ」が要ります。
ITS-TEA「セットアップについて」によると、この作業ができるのは審査に合格した「セットアップ登録店」に限られていて、「登録されていない店舗または個人では実施できません」と明記されています。フリマで中古の車載器を買ってきて自分で付ける、という手が使えないのはここです。
申込みのときに要るものも、公式に一覧があります。
- 車載器
- 車検証
- 本人確認できる運転免許証等
- Web申請で届いた申請QRコード、または委任状
申請者は「車検証上の『車両使用者』」と決まっています。家族や販売店の人が代わりに行く場合は代理人として登録するか、委任状を持っていく形になります。その委任状も細かくて、本人の自筆署名が必要(署名があれば捺印は不要)で、自筆署名が無い委任状は無効です。法人の場合は社印が押してあれば担当者の署名は不要、とも書かれています。
通販でも「セットアップ込み」として売られているものがあります。この場合も車検証の情報を店に渡すことになるので、手間がゼロになるわけではありません。ただ、取り付けを自分でやる人にとっては選択肢になります。
肝心の費用については、公式には書かれていません。 本体価格は機種で変わりますし、セットアップ料金は登録店ごとで、全国一律の公表価格が存在しません。ここは店に聞くしかない部分です。輸入車の純正ビルトインを入れ替える場合は、取り付け方によって作業の手間も変わるはずなので、ディーラーで見積もりを取ることになると思います。
そして忘れやすいのがこれです。車載器を替えたら、ETCマイレージサービスの登録情報を変更する必要があります。 車載器管理番号で紐づいているので、そのままだとポイントの計上に関わります。ITS-TEAも譲渡・廃棄のページで、そこだけは繰り返し注意しています。
乗り換える人がいちばん引っかかるのは、規格ではなく再セットアップ
規格の話とは別に、車を替えるときに必ず出てくる手続きがあります。ITS-TEA「ETC車載器の再セットアップ」によると、次の場合は再セットアップが要ります。
- 車載器を別の車両に載せ替えたとき
- ナンバープレートを変更したとき(引っ越し、ご当地ナンバーへの変更など)
- けん引構造を追加したとき
- ナンバー以外でも、車検証記載の情報(所有者・使用者の情報を除く)が変わったとき
やらないとどうなるかも書かれています。開閉バーが開かない可能性がある、正しい通行料金が請求されない場合がある、ETC利用照会サービスやマイレージの初期登録ができない、企画割引が使えない場合がある。けん引の場合はもっと直接的で、再セットアップせずにけん引して走ると出口のバーが開きません。
逆に、意外と何もしなくていいのが譲渡と廃棄でした。ITS-TEA「車載器の譲渡・廃棄」には、車載器には氏名や住所のような個人情報は登録されていないので、セットアップ情報の消去も登録解除の手続きも無いと書かれています。次に使う人のために車載器管理番号を伝えてあげてください、という案内があるくらいです。
ここで規格の話に戻ると、中古車を買う人はもう一段だけ注意が要ります。 付いている車載器が旧セキュリティなら、規格が変わったときに交換が必要になるのはその車の持ち主です。年式が古いほど確率は上がるはずですが、それを数字で示した資料は見つけられませんでした。買う前に管理番号の先頭1桁を聞いておけば済む話なので、聞いてしまったほうが早いと思います。
1億3,724万件のうち、いくつが旧なのかは公表されていない
最後に、規模だけ見ておきます。
ITS-TEA「ETC普及状況」の2026年7月時点の数字はこうです。
| 項目 | 累計(2026年7月) |
|---|---|
| 全セットアップ件数 | 137,243,722件 |
| うち再セットアップ件数 | 40,605,652件 |
| 当月の都道府県月次計 | 631,799件 |
このページは都道府県別まで細かく出ていて、東京都の累計が12,799,863件、愛知県が11,323,296件、といった粒度で読めます。ただ、新セキュリティと旧セキュリティの内訳だけは、どこにも載っていません。
ここまで細かく公開しているのに内訳が無い、というのは少し不思議でした。だから「何百万台が対象」といった数字も、ここでは出しません。手元にある一次情報から出せないものを、それらしい範囲で埋めるのはやめておきます。
言えるのは、分母がこれだけ大きい以上、期限が具体的に決まった瞬間に交換の需要が一気に立つということくらいです。「最長で2030年頃」を締切として当てにしていると、前倒しされたときに全国のセットアップ登録店に一斉に人が向かうことになります。
よくある質問
2030年になったら、いま使っているETCは必ず使えなくなりますか?
そう決まってはいません。国土交通省とITSサービス高度化機構は「具体的な時期は未定」「問題が発生しなければ最長で2030年頃まで」「問題が発生した場合は変更時期が早まる可能性があります」と書いています。2030年は上限として示された年で、締切として告知されたものではありません。逆に、前倒しの可能性も同じ文に書かれています。
車載器管理番号は、どこで見るのがいちばん早いですか?
カーナビ連動タイプなら、ナビの画面で表示できます。メルセデスでは「DSRCデバイスナンバー」という名前で出てきます。ナビに出ない場合は、取扱説明書・保証書、車載器セットアップ申込書・証明書、車載器本体のラベル、音声案内のいずれかです。セットアップ証明書は車検証ファイルに一緒に入っていることが多いので、まずそこを開けるのが早いと思います。
ETC2.0なら新セキュリティですか?
いいえ。ITSサービス高度化機構は「ETC2.0であっても、すべての車載器が新セキュリティに対応しているとは限りません」と明記しています。逆に、新セキュリティにするためにETC2.0へ買い替える必要もありません。ETC/ETC2.0の別と、新/旧セキュリティの別は独立した2つの軸です。
「2022年12月から使えなくなる」と聞いた話は、どうなりましたか?
そちらは電波法の新スプリアス規格への移行の話で、セキュリティ規格の変更とは別ものです。旧スプリアス規格の使用期限は令和3年8月の省令改正で「当分の間」に延長されました。ただし「他の無線局の運用に妨害を与えない場合に限り使用できる」という条件が付いており、総務省は「移行期限を総合的に検討する」としています。期限が無くなったのではなく、決め直しの途中です。
交換にいくらかかりますか?
公式には書かれていません。本体価格は機種によりますし、セットアップ料金は登録店ごとで、全国一律の公表価格がありません。取り付け工賃も、埋め込み型かどうかで変わります。金額は店に見積もりを取って確認してください。
まとめ
- 「2030年問題」という呼び名は、国交省・ITS-TEAの公式ページには1件も出てこない
- 公式の書き方は「具体的な時期は未定」「最長で2030年頃」「早まる可能性がある」。締切ではなく上限
- よく一緒に語られる電波法のスプリアス規格は別の話で、そちらの2022年12月1日は既に「当分の間」へ延長済み
- 新旧を分けるのは車載器管理番号19桁の先頭1桁(1が新・0が旧)。識別マークは描かれていない機種がある
- ETC2.0=新セキュリティではない。2つは別の軸
- セットアップは登録店でしかできない。車検証と免許証、代理なら自筆署名の委任状が要る
- 交換したらETCマイレージの登録情報を直す
先頭の1桁が0だったとしても、明日バーが開かなくなるわけではありません。ただ、確かめるのに5分もかからない話ではあります。車検証ファイルを開けるか、ナビの画面を1つ潜るか、そのどちらかで済みます。
※ 本記事は2026年8月時点で公開されている一次情報(国土交通省、一般財団法人ITSサービス高度化機構、総務省)をもとに構成しています。制度の内容や時期は変更される場合がありますので、実際の判断にあたっては各公式サイトで最新の情報をご確認ください。
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