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時計を売った利益に税金はかかるのか、条文まで戻って確かめた

腕時計の文字盤のクローズアップ。時計を売ったときの税金の判断基準を示すアイキャッチ Watch|時計
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2023年以降、時計を18本売り買いしてきました。内訳はロレックスが13本、パテック フィリップが2本、オーデマ ピゲが1本、オメガが2本。時計・宝飾品を取扱品目とする古物商許可も持っています。

その立場から見ると、「時計 売却 税金」で出てくる説明は、半分しか当たっていません。

よくあるのは「時計は生活用動産だから、いくらで売っても非課税」という書き方です。間違いとまでは言えないのですが、条文はもう少し細かいことを言っていて、しかも多くの記事が飛ばしている分岐が手前にひとつあります。

以下、金額は書きません。自分の取引額も、相場の水準も出しません。条文と国税庁の記載だけで、どこで線が引かれているかを追います。数字は2026年8月時点のものです。

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「非課税」と書いているのは、たいてい買い取る側です

上位に並ぶ記事の運営元を見ると、買取専門店、質屋、ブランドオークションの運営会社がほとんどです。税理士監修と明記されたものもありますが、サイトの目的は買い取ってもらうことです。

これは陰謀の話ではなくて、単に立場の問題です。売却を迷っている人に「税金が面倒かもしれません」と伝えることが、その会社の利益になる場面は少ない。だから結論が「基本的にかかりません」に寄ります。

ただ、条文を開くと、思っていたより細かいことが書いてあります。「時計は非課税」の一行で片づけるには、条件が多すぎるという印象です。

このサイトは買取をしていません。売る側として18本を通してきただけなので、ここでは条文をそのまま出します。

条文は、素材で線を引いている

出発点は所得税法9条1項9号です。ここに「所得税を課さない」ものとして、こう書かれています。

自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得

「政令で定めるもの」の中身が、所得税法施行令25条です。

法第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する政令で定める資産は、生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が三十万円を超えるものに限る。)以外のものとする。
一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品
二 書画、こつとう及び美術工芸品

出典はe-Gov法令検索「所得税法施行令」です。国税庁もタックスアンサー No.3105で「ただし、貴金属や宝石、書画、骨とうなどで、1個または1組の価額が30万円を超えるものの譲渡による所得は除きます」と書いています。

読み方の順序が少しややこしいのですが、整理するとこうなります。

  • 生活に通常必要な動産を売った所得は、原則として非課税
  • ただし「貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品」で、1個または1組が30万円を超えるものは、そこから外れる
  • 外れると、非課税ではなくなる

つまり線は金額だけで引かれているのではなく、まず素材で引かれています。 30万円という数字は、素材の条件を満たしたものにだけ乗ってくる二段目の条件です。

ここで正直に書いておきますが、私はこの線の内側と外側を自分では判定できません。 金無垢のケースが「貴金属の製品」に当たることに争いは少なそうですが、たとえば私が普段着けているデイトナはステンレスのブレスレットです。ステンレスは条文が並べている素材のどれにも当たりません。ではステンレスの時計は全部この条文の外なのかというと、そう言い切っている一次資料は見つけられませんでした。

条文にはっきり「腕時計」とは書かれていないので、ここは実際の個体を持って税務署か税理士に確認してください。「時計だから非課税」と書いてある記事も、「時計は課税対象」と書いてある記事も、どちらもこの条文までは戻っていません。

30万円を超えたとして、いくらから税金が出るのか

外れた場合、総合課税の譲渡所得として計算します。式は所得税法33条3項・4項に書かれていて、国税庁のタックスアンサー No.3152にも同じ形で載っています。

譲渡所得の金額 = 譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)-50万円

50万円は特別控除です。条文では「譲渡所得の特別控除額は、五十万円(譲渡益が五十万円に満たない場合には、当該譲渡益)とする」となっていて、その年の譲渡益の合計に対して1回です。売った本数ぶん50万円ずつ引けるわけではありません。ここを誤解している人はけっこういると思います。

もうひとつが所有期間です。

区分 所有期間 総合課税の対象
短期譲渡所得 取得の日から5年以内 全額
長期譲渡所得 5年超 2分の1

5年を1日でも超えていれば、課税対象は半分になります。売る時期を選べる立場なら、ここは効きます。

数字を入れてみると、差の大きさが分かりやすいです。以下は条文の当てはめを見るための仮の数字で、私の取引ではありません。

3年で売った場合 6年後に売った場合
売った金額 150万円 150万円
買った金額(取得費) 80万円 80万円
譲渡益 70万円 70万円
特別控除 −50万円 −50万円
譲渡所得 20万円 20万円
総合課税の対象 20万円(全額) 10万円(2分の1)

同じ個体を同じ金額で売っても、所有期間が5年を超えていたかどうかで、課税所得に乗る額が倍違います。ここに各人の税率が掛かるので、最終的な税額は人によって変わります。

「一個又は一組」という書き方も、地味ですが効きます。条文は1本ずつで見る建て付けなので、同じ年に何本売っても、30万円の判定は本ごとです。ただし後述のとおり、本数が増えること自体が別の問題を連れてきます。

気になるのは取得費のほうです。式を見れば分かるとおり、買ったときにいくら払ったかを差し引けます。ところが購入時の明細や領収書を残していない人が、実際にはかなり多い。 何年も前に買ったものだとなおさらです。差し引ける金額を証明できなければ、そのぶん課税対象が膨らみます。土地や建物には「売却額の5%を取得費とみなす」という制度がありますが、あれは土地建物の話なので、時計にそのまま持ってくる書き方はしません。

ここまでは全部、「たまに手放す人」の話です

ここが分岐です。

30万円も、50万円の特別控除も、5年の線も、すべて譲渡所得の中の話です。そして所得税法33条2項1号は、こう書いています。

次に掲げる所得は、譲渡所得に含まれないものとする。
一 たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得

条文はe-Gov法令検索「所得税法」で読めます。

営利を目的として継続的に行われる譲渡は、譲渡所得ではない。 譲渡所得ではない以上、生活用動産の議論も、30万円の線も、50万円の控除も、長期の2分の1も、最初から出番がありません。事業所得または雑所得として扱うことになります。

検索して出てくる記事の多くは、この分岐を後半の「なお、継続的に売買していると事業とみなされる場合があります」という但し書きに押し込んでいます。順序が逆だと私は思っています。先に「あなたはどちらの人か」を決めないと、30万円の話をしても意味がない。

これは私の勝手な読み方ではなくて、国税庁自身が別の資産で同じことを書いています。金地金についてのタックスアンサー No.3161には「営利を目的として継続的に行われている場合には、その実態に応じて事業所得または雑所得となります」とあります。資産の種類が違っても、判断の順序は変わりません。

では継続的とはどのくらいか。ここは条文に本数も金額も書かれていません。事業所得と業務に係る雑所得の区分については、国税庁が所得税基本通達 法第35条《雑所得》関係で35-2を置いていて、令和4年10月に改正が入っています。帳簿書類を残しているかどうかが判断に関わる形になっているのですが、細かい当てはめは個別事情で変わるので、ここで私が結論を書くのは適切ではありません。 実際に何本か売っていて心当たりがあるなら、税理士に聞くのが早いです。

古物商の許可を取るというのは、そういうことです

古物営業法3条にこうあります。

前条第二項第一号又は第二号に掲げる営業を営もうとする者は、都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の許可を受けなければならない。

条文はe-Gov法令検索「古物営業法」にあります。2条2項1号の「古物を売買し、若しくは交換し…する営業」を営む人が対象です。

読んで気づいたのは、許可という制度が、単発で1本手放す人を想定していないということでした。「営業を営もうとする者」に向けた仕組みです。裏返すと、許可を取った時点で、営利目的で反復継続してやるつもりだと自分で届け出ていることになります。

私は許可を持っています。だから、上のセクションで書いた「あなたはどちらの人か」という問いに対して、少なくとも制度の側から見た自分の立場ははっきりしています。

これは気持ちのいい話ではありません。許可を取ると仕入れの選択肢は増えますが、税金の扱いは面倒になる方向に動きます。 「趣味で集めていたら結果的に増えた」で通せる範囲が狭くなるからです。買取業者のメディアがこの話を書かないのは、書いても誰の得にもならないからだと思います。

ここは私の解釈が入っているので、そのつもりで読んでください。許可の有無が所得区分を自動的に決めるわけではありませんし、許可が無くても継続的に売っていれば33条2項1号は同じように効きます。

結局、売る前に残しておくべきものは何か

条文を追った結果、私が実務として意味があると思ったのは次の3つでした。

  • 買ったときの記録を残す。 明細・領収書・購入日が分かるもの。取得費を差し引けるかどうかが、ここで決まります
  • 売った日と金額を、自分の側でも控えておく。 買取店の伝票は渡されますが、年をまたいで集計するのは自分の仕事です
  • 付属品と保証書を、買ったときの状態のまま保管しておく。 これは税金というより手取りの話ですが、結果として同じところに効きます

3つ目は別記事で細かく書きました。査定で最初に見られるのは外装で、そのあとに箱・保証書・余りコマが効いてきます。

金額のことも書いておきます。私は自分の取引額を公開していません。18本の中には、大きく損を出したものもあります。 儲かった話だけを並べても仕方がないので事実として書いておきますが、金額を出すと資産の規模まで推測できてしまうので、そこは線を引いています。

ひとつだけ言えるのは、出口の条件は買うときにほぼ決まっているということです。5年の線も、取得費の記録も、付属品の有無も、全部「売る日」ではなく「買う日」に決着がついています。売ろうと思ってから慌てても、もう動かせません。

この構造は時計に限りません。私は不動産でも同じことを経験していて、そちらは別記事にまとめました。

よくある質問

時計を売ったら、必ず確定申告が必要ですか

いいえ。生活に通常必要な動産の譲渡として非課税になる範囲であれば、そもそも譲渡所得が生じません。ただし所得税法施行令25条の除外に当たる場合や、営利目的で継続的に売っている場合は別です。国税庁 タックスアンサー No.1460に、土地建物・株式以外の資産を譲渡したときの扱いがまとまっています。

1本30万円以下なら、何本売っても大丈夫ですか

施行令25条の条件は「一個又は一組の価額が三十万円を超えるものに限る」なので、金額の基準は1個または1組ごとに見ます。ただし、本数が増えるほど「営利を目的として継続的に行われる譲渡」(所得税法33条2項1号)に近づきます。 1本ずつの金額だけを見て安心できる話ではありません。

50万円の特別控除は、売った本数ぶん使えますか

いいえ。所得税法33条4項の特別控除は、その年の譲渡益の合計に対して50万円です。国税庁も「譲渡所得の特別控除の額は、その年の長期の譲渡益と短期の譲渡益の合計額に対して50万円です」と記載しています。

古物商の許可を持っていると、申告は必ず事業所得になりますか

そうとは限りません。許可はあくまで営業の許可であって、所得区分をその場で決めるものではありません。判断は実際の取引の中身によります。ただ、継続してやっている事実を示す材料のひとつにはなると考えておいたほうがいいと思います。

買ったときの領収書が無い場合はどうなりますか

取得費として差し引ける金額を証明しづらくなります。購入店に履歴が残っていることもあるので、まずは買った店に問い合わせてみてください。それでも出てこない場合の扱いは個別事情によるので、税務署か税理士に確認してください。

まとめ

  • 非課税かどうかの線は、金額の前に素材で引かれている(所得税法施行令25条)
  • 30万円を超えて課税側になると、取得費・譲渡費用を引き、50万円の特別控除を差し引く。所有5年超なら課税対象は2分の1
  • 繰り返し売っている人は、そもそも譲渡所得の話ではない(所得税法33条2項1号)。ここが最初の分岐
  • 古物商の許可は「営業を営もうとする者」に向けた制度で、取れば継続性を自分で届け出たことになる
  • 差が出るのは売る日ではなく買う日。記録と付属品を残しておくこと
本記事は情報提供を目的としており、特定の商品やサービスの勧誘を目的とするものではありません。また、税務相談に代わるものでもありません。記載は2026年8月時点の条文・国税庁の公表資料に基づく整理であり、実際の課税関係は個別の事情によって変わります。申告の要否や所得区分については、必ず所轄の税務署または税理士にご確認ください。筆者の売買実績は2023年以降のもので、他の方の結果を保証するものではありません。