2021年1月に、このサイトでシャープの車載空気清浄機のレビューを書きました。そのときの本文に、自分でこう書いています。
「使ってみて私もですが、一体どれぐらいの効果があるのか正直いまいちわからないですよね。」
そう書いたまま、効果のほうを確かめていませんでした。今回はそこを調べました。商品を並べ直すのではなく、商品ページに出てくる数字そのものの出どころを辿るほうです。結果として、自分が書いた記事を1箇所訂正することになりました。
その「99.7%」は、2004年に猫のコロナウイルスで出た数字でした
車載の空気清浄機、特にイオンを出すタイプを調べていると、かなりの確率で「40分以内に99.7%不活化」という数字に行き当たります。私も2021年の記事でこれを引いていました。
出どころはシャープの公式リリースです。実際に開いてみると、こうなっていました。
| 項目 | リリースに書かれている値 |
|---|---|
| 公開日 | 2004年7月27日 |
| 対象のウイルス | ネココロナウイルス(猫のコロナウイルス) |
| 試験した容積 | 1立方メートルのボックス(イオン発生素子あり/なしの2つを比較) |
| 時間 | 40分以内 |
| 低減率 | 99.7%不活化 |
| 共同研究 | 社団法人 北里研究所 北里研究所メディカルセンター病院 |
| 測定方法 | 細胞への感染量を測定するTCID50法 |
出典: シャープ「社団法人北里研究所との共同研究で検証 世界初、プラズマクラスターイオン技術が浮遊『コロナウイルス』を不活化」(2004年7月27日)(2026年10月時点で閲覧可)
2004年です。20年以上前の発表で、ページのどこにも「新型コロナウイルス」という言葉は出てきません。当時話題になっていたSARSについては触れていて、そちらの試験は進めている、という書き方で終わっています。
誤解のないように書いておくと、これは手を抜いた実験という話ではありません。リリース自身が「世界初」と言っているとおり、当時としては意味のある検証だったはずです。問題は実験のほうではなく、この数字が20年後にどう引用されているかのほうです。
2021年の自分の記事が、この数字を新型コロナの話として書いていました
ここは正直に書きます。2021年1月31日に公開した記事のタイトルは「車内でもコロナ対策バッチリ!SHARP車載空気清浄機を徹底レビュー」で、本文では、シャープと北里研究所の共同研究で40分以内に99.7%を不活化した、という話を新型コロナウイルスの文脈で書いていました。
上のとおり、元のリリースはネココロナウイルスです。猫のコロナウイルスで出た数字を、新型コロナの予防効果の根拠のように並べていたことになります。これは私の書き間違いなので、訂正します。
当時の自分の名誉のために1つだけ書いておくと、同じ記事の中で「どれぐらいの効果があるのか正直いまいちわからない」とも書いていました。わからないと書きながらタイトルに「バッチリ」と付けているので、言い訳にはならないのですが。
消費者庁が問題にしたのは「効果が無いこと」ではありません
この手の商品には、行政が実際に動いた前例があります。2020年5月15日に消費者庁が出した「携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社に対する行政指導について」という文書です。
ここが一番大事なところなので、原文をそのまま引きます。
携帯型の空間除菌用品については、「身につけるだけで空間除菌」等の表示が行われていることがありますが、当該表示の根拠とされる資料は、狭い密閉空間での実験結果に関する資料であることがほとんどであり、風通しのある場所等で使用する際には、表示どおりの効果が得られない可能性があります。
出典: 消費者庁 ニュースリリース「携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社に対する行政指導について」(令和2年5月15日)。宮城県のサイトに掲載されている同リリースのPDFから引用しました(2026年10月時点で取得可)。消費者庁サイト側の当時のページは見つけられませんでした
読み方を間違えやすいので、注意点を3つ並べます。
- 「効果が無い」と認定したのではありません。 別紙1の「実際」の欄は「前記1の表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料がないおそれがある。」という書き方です。無効だと断じたのではなく、根拠の資料が足りていないおそれがあるという指摘です
- 措置命令ではなく、再発防止等の「指導」です。 5事業者が対象で、社名は公表されていません。根拠は景品表示法第5条第1号(優良誤認表示)に該当するおそれ、とされています
- 対象は「首に下げるなどして使用する」携帯型です。車載の空気清浄機そのものが処分されたわけではありません。ここを混ぜて「車載機も違法」と読むのは行き過ぎです
そのうえで、車に乗る人間として引っかかったのは別紙1に並んでいた表示の例です。問題とされた文言の中に、こういうものが入っていました。
- 身につけるだけで、空間のウイルスを除去
- 身につけるだけで1立方メートルの空間除菌
- 電車やバスの中、各種施設の中などで、空間に浮遊するウイルス・菌・臭いを除去します
乗り物の車内が、名指しで例に挙がっている側です。 それと、ここで出てくる単位が1立方メートルだという点。報道では1平方メートルと書いているものもあったのですが、原文は立方メートルでした。
それと、これは2020年に一度あった昔話ではありません。消費者庁の公表を並べると、段階が上がっています。
| 時期 | 対象 | 処分 |
|---|---|---|
| 2020年5月15日 | 携帯型の空間除菌用品(二酸化塩素)5事業者 | 再発防止等の行政指導 |
| 2021年4月9日 | 亜塩素酸の空間除菌スプレー 2社 | 措置命令 |
| 2024年1月31日公表 | 二酸化塩素による空間除菌を標ぼうする商品 4社 | 措置命令(命令は1月26日・29日・30日) |
出典: 消費者庁の各公表資料。2024年の件は「二酸化塩素による空間除菌を標ぼうする商品の販売事業者4社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(2026年10月時点で閲覧可)。根拠は景品表示法第7条第1項で、違反は同法第5条第1号(優良誤認)とされています
指導で終わった2020年と違い、2021年と2024年は措置命令です。空間除菌という売り方そのものが、4年かけて厳しく見られるようになってきた、という流れに見えます。
1立方メートルの箱と、走っているクルマの中
ここまでで数字が2つ出てきました。試験に使われた箱が1立方メートル。消費者庁が引っかかったのが「狭い密閉空間での実験結果」。
では、クルマの中は密閉空間なのか。
検索して出てくる記事の多くは「車内は密閉空間だから汚れが残りやすい」と書いています。実際にそう書いている上位記事を5本読みました。ただ、エアコンを外気導入にして走っている状態は、密閉とは言いにくいはずです。
国土交通省の資料には、バスについての数字がありました。
外気導入による車内換気の徹底(観光バスは5分、路線バスは3分で車内の空気は入れ替わる)
出典: 国土交通省「『事業用自動車総合安全プラン2025』達成に向けた国土交通本省のその他の取組状況」参考資料2(令和4年度 第1回 事業用自動車に係る総合的安全対策検討委員会・2026年10月時点で取得可)
観光バスの車内は、乗用車とは比べものにならない容積です。その観光バスでも、窓を閉めたまま5分で中の空気が入れ替わると国の資料が書いている。路線バスなら3分です。
なお、同じ国交省からは2020年3月6日に「新型コロナウイルス感染防止に向けたバス・タクシーの車内換気について(要請)」という文書も出ていて、エアコンで外気を導入すること、乗客の降車後に窓を開けることを求めています。
ここで正直に書いておきたいことがあります。乗用車(自家用車)が何分で入れ替わるのかという数字は、一次資料では見つけられませんでした。 「タクシーは約1分」という数字が自治体の資料に引用されているのを見つけたのですが、そのPDFは今アクセスすると404で、元になった研究所の報告書も探し当てられませんでした。条件(車種・窓の開閉・風量)が確認できない数字なので、ここには書きません。
書けるのはこれだけです。公的に確認できる中で一番大きいキャビンであるバスが3〜5分で、1立方メートルの箱を40分置いた試験とは、条件が別。 そこから先の乗用車の数字は、誰かが実測して公開してくれるのを待つしかありません。
内気循環にして窓を閉め切れば、話は少し変わります。それでも40分間ずっと空気が動かない状態を都内で作るのは、渋滞に完全に捕まっているときくらいだと思います。私の場合、走っているのはほぼ都内です。
家庭用の「畳数」は、1時間に1回しか換気されない部屋の数字です
家庭用の空気清浄機には「適用床面積」、つまり何畳用かという表示があります。あれが何を意味しているのかを調べたら、今回の話と直結していました。
シャープの仕様ページの注記に、こう書かれています。
日本電機工業会規格〈JEM1467〉にて規定されている項目で、自然換気回数1(1回/時間)の条件において、粉じん濃度1.25mg/m³の空気の汚れを30分でビル衛生管理法に定める0.15mg/m³まで清浄できる部屋の大きさを基準として定めている
出典: シャープ FU-G51 仕様ページの注2「適用床面積とは」(2026年10月時点)
1時間に1回しか換気されない部屋が前提です。 落とす対象も、ウイルスではなく粉じんの濃度です。
つまり畳数という数字は、「ほとんど空気が入れ替わらない箱」を想定して作られた指標です。外気導入で走っているクルマは、この前提の外にいます。
だから車載機のスペックには畳数が書かれていない、という理屈になります。実際、私が2019年モデルのcadoをレビューした記事を見返しても、畳数の記載はどこにもありませんでした。
注意点として、JEM1467の規格本文そのものは無料では読めません。規格の適用範囲に「車載機を除く」と書いてあるかどうかは確認できていないので、「規格の対象外だから書いていない」とまでは言えません。確かめられたのは、家庭用の畳数がこの前提で決まっていることと、車載機にその表示が無いこと、の2つだけです。
メーカーが今書いているのは「付着」のほうです
ここが個人的に一番面白かったところです。シャープの現行の車載モデル(IG-NX15)の公式ページを開いて、言葉の選び方を見てみました。
| 見たところ | 公式ページの記載 |
|---|---|
| 商品のカテゴリー | プラズマクラスターイオン発生機(=空気清浄機という区分ではない) |
| ウイルスの書き方 | 「気になるニオイの消臭や付着ウイルスにも。」 |
| ニオイ | 「車内の『6大付着臭』を消臭」「クルマの中で気になる6種類のニオイに効果を発揮します」 |
| 除菌 | 「除菌」という表示は無い |
| イオン濃度 | 1cm³当たり50,000個/cm³以上 |
出典: シャープ IG-NX15 製品ページ(2026年10月時点)
「浮遊」ではなく「付着」です。 2004年のリリースのタイトルは「浮遊『コロナウイルス』を不活化」でしたが、今の車載モデルのページは付着ウイルスと書いています。そして商品の区分自体が空気清浄機ではなく、イオン発生機になっている。
イオン濃度の50,000個という数字にも、細かい条件が付いています。注記の原文はこうです。
当技術マークの数字は、商品を運転席横のカップホルダーに置いて、「ターボプラス」運転時にプラズマクラスター適用容積の空間中央(床上0.5m)で1cm³当たり50,000個/cm³以上です
置き場所が運転席横のカップホルダー、運転モードがターボプラス、測るのは床上0.5メートルの空間中央。この3つが揃ったときの数字ということです。後席のドリンクホルダーに移したり、静音運転で使ったりしたら同じ数字にはならない、と読むのが自然だと思います。
少し気になるのは、適用容積という言葉は注記に出てくるのに、公式ページには容積の数値が書かれていないことです。販売店の掲載スペックには「約3.6立方メートル(自動車室内相当)」という数字があったのですが、これはメーカー公式の値として扱えないので、ここでは参考程度にしておきます。
「不活化」と「除去」と「除菌」は、別の言葉です
ここまで出てきた資料を並べると、使われている動詞が全部違うことに気づきます。同じ商品の話をしているのに、です。
| どこ | 使っている言葉 | 何を測ったか |
|---|---|---|
| シャープの2004年のリリース | 不活化(99.7%不活化) | TCID50法で、細胞への感染量を測定 |
| 消費者庁が問題にした表示例 | 除去・空間除菌 | (根拠資料が足りていないおそれ、とされた側) |
| シャープのIG-NX15の現行ページ | 消臭と「付着ウイルスにも」 | 除菌という語は使っていない |
不活化は「感染する力が落ちた」で、除去は「その場から無くなった」です。 測り方も違います。2004年の試験はTCID50法で感染量を見ているので、箱の中からウイルスが消えたことを示したわけではありません。
商品の説明文を読むときに、ここだけ見分けられると楽になります。不活化・低減・抑制と書いてあれば試験室の数字、除去と書いてあれば空間から無くなるという主張、という読み方です。後者のほうが強い言い方なので、根拠も重くなります。
正直に書くと、2021年の記事では、この違いを書き分けていませんでした。元のリリースが不活化と書いているのに、自分の記事では対策という言葉で受けてしまっていました。
では、何なら確かめられるのか
否定だけして終わるのは不誠実なので、裏が取れる側も書きます。
フィルターで粉じんを捕るのは、物理的に起きていることです。 JEM1467の定義に出てきたのも、ウイルスではなく粉じん濃度でした。1.25mg/m³を0.15mg/m³まで落とす、という測り方です。花粉やホコリの話なら、この系統で考えられます。
私がレビューしたcadoのLEAF Portable(MP-C30)は、その記事に書いたとおり空気清浄機能だけでイオンは発生しません。当時の記事にはこう書きました。
「イオンが発生しなくても空気を清潔にしてくれれば実際いいと思います。」
今の知識で読み返すと、わりとまともな判断をしていたなと思います。イオン側の効果は条件が細かくて検証しづらいのに対し、フィルターで捕る側は仕組みが単純です。
ただ、フィルター型には交換が必要という弱点があります。そこがランニングコストになります。
本体のほうも、2019年10月末に出たモデルなので、もう新しいとは言えません。デザインについては当時「デザイン料金がそれなりに乗っているなというイメージでした」と書いています。おしゃれではあるけれど、価格の内訳としてはそういうことです。
ニオイについては、メーカー公式が効果を書いている領域です。 先に引いたとおり、IG-NX15のページは「6大付着臭を消臭」とはっきり書いています。ウイルスの話とニオイの話を分けて考えるなら、ニオイ目的で選ぶほうが、書かれていることと買う理由が一致します。
2021年の記事で私が「1番おすすめ」と書いたのはIG-MX15でした。そのときの比較表に載せた価格は、IG-MX15が14,377円、IG-NX15が15,156円、IG-LC15が7,580円です(2021年1月30日時点でAmazonと楽天を見たときの値)。安いIG-LC15と比べて「約倍のお金を出しても良いのではないかな」とも書いていました。性能と運転音が気になる、というのが当時の理由です。なお現行モデルは後継のIG-NX15のほうです。
ニオイそのものを足す側の道具については、別に書いています。
よくある質問
車載空気清浄機は意味がないということですか?
そうは書いていません。消費者庁も「効果が無い」と認定したわけではなく、表示の裏付けとなる資料が足りていないおそれがあると指摘しています。粉じんを捕る働きと、メーカーが公式に書いている消臭については、根拠の形がはっきりしています。はっきりしないのは「走っているクルマの中で、浮いているウイルスがどれだけ減るのか」という部分です。
「ウイルス99.7%」と書いてある商品は、違法なのでしょうか?
その表示だけで違法と決まるものではありません。景品表示法で問題になるのは、実際の商品の性能より著しく優良だと見せる表示かどうかで、根拠資料が表示に見合っているかが争点になります。2020年の件は携帯型の空間除菌用品に対する行政指導で、社名は公表されていません。買う側としては、その数字がいつ・何のウイルスで・どれだけの容積で出たものかを見るのが現実的だと思います。今回の99.7%は、2004年・ネココロナウイルス・1立方メートルでした。
窓を開けるのと、どちらが効きますか?
比べた実験データを持っていないので、どちらが上とは言えません。ただ、国交省の資料が外気導入と窓開けの両方を挙げていること、そして観光バスでも5分で空気が入れ替わると書かれていることは、判断材料になると思います。空気を入れ替えること自体は、機械を足さなくてもできる、ということでもあります。
畳数が大きいモデルのほうが、車では効くのですか?
車載モデルには畳数の表示がありません。そもそも適用床面積は、1時間に1回しか換気されない部屋を前提に計算される数字なので、クルマに当てはめる土台がありません。家庭用の大きいモデルを車内で使う場合も、同じ理由で畳数は目安になりません。
結局、どう考えているか
今回調べて、自分の記事を1つ訂正することになりました。2004年の猫のコロナウイルスの数字を、新型コロナの話として引いていたからです。20年前の数字が、商品のページを経由して、何の疑問もなく個人のブログに流れ込んでくるという流れがよくわかりました。
そのうえで、車載空気清浄機を外すかというと、外していません。ニオイとホコリのために置いておく道具としては筋が通っているからです。ただ「これがあるからウイルス対策ができている」という読み方は、もうしないことにしました。
数字を見るときに確かめるのは3つだけで足ります。いつの試験か。何を対象にしたか。どれだけの容積か。 今回の99.7%は、2004年・ネココロナウイルス・1立方メートルでした。この3つを並べれば、自分の車に当てはまる数字なのかどうかは、だいたい見当がつくと思います。
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