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車検の最低地上高「9cm」は、車高を下げた車のために書かれた数字だった

夜の都内の路面に停まる輸入車の後部と路面。車検の最低地上高9cmの根拠条文を扱う記事のアイキャッチ Car|車
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最低地上高は9cm以上。車検の話題でこれを見ない日はないくらい、この数字だけは広まっています。ではその9cmは、どの法令の何条に書いてあるのか。

保安基準を開くと、たぶん拍子抜けします。道路運送車両の保安基準 第3条は、見出しを含めて全文68文字しかなくて、9という数字が出てきません。

乗ってきた車は2台です。2019年3月から2023年8月までが AMG C43、そこから先がいまの G400d。保安基準を装置ごとに読んでいくのはこれで27本目になりますが、最低地上高を正面から扱うのは初めてでした。公開している108本を機械検索しても、車高を下げた話も、下回りを擦った話も0件です。以下は体験談ではなく、9cmがどこに置かれていて、誰に向けて書かれているのかを追いかけた記録です。

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保安基準第3条は68文字で終わっている

まず根っこから。e-Gov法令検索でXMLを取って、第3条だけを抜き出しました。

自動車の接地部以外の部分は、安全な運行を確保できるものとして、地面との間に告示で定める間げきを有しなければならない。

道路運送車両の保安基準 第3条(最低地上高)

以上です。見出しの「(最低地上高)」と条名を含めて68文字。「告示で定める間げき」で投げていて、それが何センチなのかは一切書いていません。

ついでに保安基準の全条文を走査したのですが、「最低地上高」という語は、この第3条の見出しの1件しか出てきませんでした。長さ・幅・高さを決めている第2条が602文字あって、十二メートル、二・五メートル、三・八メートルと具体的な数字を並べているのと比べると、隣の条とは思えない薄さです。

上の余裕(全高)は数字で縛るのに、下の余裕は告示に丸投げする。同じ「寸法」なのに扱いが違うのが、この条文の入口で引っかかるところでした。

新車の側の条文も、数字ゼロで終わっていた

では告示のほうを見ます。保安基準の細目を定める告示、いわゆる細目告示です。国土交通省のサイトに条ごとのPDFが置かれていて、保安基準第3条に対応するのは第7条でした。

保安基準第3条の告示で定める基準は、自動車の接地部以外の部分が、安全な運行を確保できるように地面との間に適当な間げきを有することとする。

保安基準の細目を定める告示 第7条(最低地上高)

「適当な間げき」。全文122文字、9cmも式も出てきません。

ここで一度、追いかけるのをやめそうになりました。保安基準が告示に投げて、投げられた告示が言い換えただけで終わっている。9cmはどこから湧いて出たんだ、という気分になります。

種明かしをすると、第7条は「第1節」の条文でした。細目告示の第2章には節が3つあって、節ごとに同じ「最低地上高」の条文が置かれています。第7条はそのうち、型式指定を受けた新車に当てる節のものだったわけです。

同じ「最低地上高」が、3つの節に3本ある

節の適用範囲は、それぞれの節の頭に置かれた条(第5条・第83条・第161条)で決まっています。読んで整理するとこうなりました。

適用される場面(適用条) 最低地上高の条 本文の量 9cm
第1節 指定自動車等であって新たに運行の用に供しようとするもの等(第5条) 第7条 122文字 なし
第2節 指定自動車等以外の自動車であって新たに運行の用に供しようとするもの等(第83条) 第85条 1,586文字 あり
第3節 使用の過程にある自動車(第161条) 第163条 1,557文字 あり

車検、つまり継続検査がどこに当たるかは第161条がはっきり書いています。第1項第4号が「法第62条第1項の規定による継続検査を行う場合」。車検で見られるのは第3節、条でいうと第163条です。

第85条と第163条は、字数が30文字ほど違うだけでほとんど同じに見えます。気になったので、PDFからヘッダーとページ番号を落として1,496文字と1,465文字にそろえ、Pythonの差分計算にかけました。違っていたのは2か所だけです。

# 第85条(新規検査等) 第163条(車検)
1 85 163
2 自動車の接地部以外の部分と地面との間の間げき(以下「地上高」という。) 地上高

2つ目は「地上高」という言葉を定義しているかどうかの差で、中身の基準はまったく同じでした。新車として通すときも、車検で通すときも、この条文に関しては一字一句同じ数字が当たっているということです。

条文が名指ししているのは、車高を下げた車だった

ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。第163条の本文は、こういう作りになっています。

保安基準第3条の告示で定める基準は、自動車の接地部以外の部分が、安全な運行を確保できるように地面との間に適当な間げきを有することとする。この場合において、地上高が次の各号のいずれかに該当するものはこの基準に適合するものとする。
一 指定自動車等と同一と認められる自動車
二 普通自動車及び小型自動車(略)であって、最低地上高が低くなるような改造がされた自動車については、イの測定条件で測定した場合において、測定値がロの基準を満たす自動車

保安基準の細目を定める告示 第163条(最低地上高)

9cmも、軸距の式も、アンダーカバーの読み替えも、ぜんぶ第2号の中にあります。そして第2号が名指ししているのは「最低地上高が低くなるような改造がされた自動車」です。

一方の第1号は「指定自動車等と同一と認められる自動車」。メーカーが型式指定を取ったままの状態の車なら、これに当たって適合扱いになります。測る話が出てくる前に決着しているわけです。

念のため書いておくと、この2つは「いずれかに該当するものはこの基準に適合するものとする」という書き方で、適合とみなす受け皿として置かれています。どちらにも当たらない車(たとえば改造していない並行輸入車)が自動的に不適合になる、という読み方はできません。その場合は本文の「適当な間げき」に戻ります。ここは条文がはっきり書いていないので、断定は避けておきます。

競合する解説を7本、実際に取得して機械で数えてみました。「低くなるような改造」という語は、7本すべてで0件でした。9cmという数字は全部が書いているのに、それが誰に向けた数字なのかは誰も書いていない、という状態になっています。

判定は9cmひとつではなく、3つある

第2号のロ、つまり判定基準は3本立てです。原文の記号のまま書き出します。

記号 対象 基準
(ア) 自動車の地上高(全面 9cm以上
(イ) 軸距間に位置する部分 H=Wb・1/2・sin2°20′+4
(ウ) 前輪より前方/後輪より後方に位置する部分 H=Ob・sin6°20′+2

Hは地上高(cm)、Wbは軸距(cm)、Obは軸の中心線から測定しようとする位置までの距離(cm)。三角関数の値は条文が指定していて、sin2°20′=0.04、sin6°20′=0.11 を使えと書いてあります。自分で関数電卓を叩く必要はありません。

解説記事でよく見る「前輪と後輪の中心軸のあいだで、いちばん低い部分を測る」という説明は、(イ)のことだけを指しています。(ア)は「全面」と書いてあるので、対象は車全体です。前後のオーバーハングも(ウ)で別に縛られています。ここを軸距間の話だけだと思っていると、バンパー下のリップやマフラーの出口を見落とします。

測定条件のほうも5つあって、こちらは地味ですが効きます。

  • 測定する自動車は空車状態とする
  • タイヤの空気圧は規定された値とする
  • 車高調整装置が付いているなら標準(中立)の位置。任意の位置に保持できるものは最低と最高の中間
  • 舗装された平面に置き、巻き尺等を用いて測定する
  • 測定値は1cm未満は切り捨て、cm単位とする

エアサスで車検のときだけ上げておけばいい、という話をたまに見かけますが、条文は「最低と最高の中間」と書いています。上げ切った状態で測る想定にはなっていません。

自分の車の軸距を、式に入れてみる

数字だけ眺めても手応えがないので、いま乗っている G400d を入れてみます。ホイールベースは2,890mm、つまり289cmです。

H = 289 × 1/2 × 0.04 + 4 = 5.78 + 4 = 9.78cm

9cmではなく9.78cm。軸距が長いぶん、軸距間に必要な高さは9cmより上がります。

損益分岐を逆算すると、Wb×0.02+4=9 を解いて軸距250cmでちょうど9.00cmでした。軸距2,500mmを超える車、つまり最近の乗用車のほとんどは、軸距間については9cmより高い数字を要求されている計算になります。300cmで10.0cm、350cmで11.0cm。解説記事に出てくる「ホイールベース300cm以上は10cm」という説明は、この式から出てきたもので、計算としては合っています。

(ウ)のほうも同じように見ておくと、0.11×Ob+2 が9を超えるのは Ob が約64cmを超えたあたりです。軸の中心から60cmや70cm飛び出した位置に低い部品があるなら、そこは9cmでは足りません。ただG400dの前後オーバーハングの内訳は公表値が見つからなかったので、自分の車に当てた数字は出さないでおきます。全長4,660mmから軸距2,890mmを引いた1,770mmが前後の合計だ、というところまでです。

ちなみに G400d のカタログ上の最低地上高は270mmです。27cmなので、9cmの3倍あります。この式を真面目に計算した意味がまったく無い、というのが正直なところでした。

審査事務規程にだけ、もう一度切り捨てる一文がある

検査を実際に行う側の文書が、自動車技術総合機構の審査事務規程です。最低地上高は「7-3、8-3 最低地上高」という1ページのPDFにまとまっていて、7-3のほうに測定条件と判定基準がそのまま載っています。根拠も「(保安基準第3条関係、細目告示第7条関係、細目告示第85条関係)」と明記されていました。

告示とほぼ同じ文章なのですが、告示に無い一文が混ざっています。

また、判定値は、1cm未満は切り捨て、cm単位とする。

審査事務規程 7-3-1

告示が切り捨てると書いているのは測定値のほうだけです。「判定値」という語を細目告示第85条と第163条で数えるとどちらも0件で、この一文は規程にしかありません。

効きます。さっきの G400d の9.78cmは、1cm未満を切り捨てて9cmになります。軸距250cmから299cmの車は計算結果が9.00〜9.98cmの範囲に収まるので、切り捨てると全部9cm。結局、軸距3mを切る車にとって(イ)の式は(ア)の9cmと同じ答えしか返しません。300cmを超えて初めて10cmになる、というのはそういう意味でした。

7本の競合記事で「判定値」を数えたら、これも0件。式は2本が載せているのですが、その答えをもう一度丸める規定があることは、どこにも書かれていませんでした。

アンダーカバーの5cmと、「測らない部品」は別の規定

ここは解説記事がいちばん混ざっているところなので、条文の順番どおりに分けます。まず測定から除く部分が3つ。

  • a タイヤと連動して上下するブレーキ・ドラムの下端、緩衝装置のうちのロア・アーム等の下端
  • b 自由度を有するゴム製の部品
  • c マッド・ガード、エアダム・スカート、エア・カット・フラップ等であって樹脂製のもの

これらはそもそも測らない部分です。「5cm以上あればいい」ではありません。泥除けやエアダムスカートが車検でどう扱われるかを探している人の答えはここで、樹脂製ならそもそも測定の対象外、というのが条文の書き方です。

そして5cmへの読み替えは、まったく別の文にあります。

ただし、自動車の接地部以外の部分と路面等が接触等した場合に、自動車の構造及び保安上重要な装置が接触等の衝撃に十分耐える構造のもの、又は自動車の構造及び保安上重要な装置を保護するための機能を有するアンダーカバー等が装着されている構造のものにあっては、当該部位の地上高は次の(ア)及び(イ)の基準を満足していればよいものとする。(略)この場合において、(略)(ア)の数値は5cm以上と読み替えて適用する。

保安基準の細目を定める告示 第163条

条件は「衝撃に十分耐える構造」か「アンダーカバー等が装着されている構造」であること。対象は当該部位で、軸距の間にあるかどうかは条件に入っていません。ここを「ホイールベース内なら5cm」と書いている解説がありますが、条文はそう切っていませんでした。

もうひとつ。読み替えが効いたときに満たせばいいのは「(ア)及び(イ)」で、(ウ)が落ちます。前後のオーバーハングの式が外れるという意味で、これは地味に大きい差です。

なお、7本のうち1本が「エアロパーツは灯火類が埋め込まれていないこと」という条件を書いていました。細目告示第163条・第85条と審査事務規程7-3を全部数えましたが、「灯火」も「フォグ」も0件です。灯火の取付高さは完全に別建ての規定なので、ここの条文には出てきません。

改造していない車に当てる章は、[審査事項なし]だった

審査事務規程の第7章と第8章は、章の名前が似ていて紛らわしいのですが、中身の役割が違います。

正式名称
第7章 新規検査、予備検査、継続検査又は構造等変更検査
第8章 新規検査、予備検査、継続検査又は構造等変更検査(改造等による変更のない使用過程車

つまり第8章が、手を入れていない車を車検に通すときの側です。その8-3を開くと、こうなっていました。

8-3 最低地上高
[審査事項なし]

審査事務規程 8-3

一語です。7-3が1,646文字あるのに対して、8-3は角括弧つきのこれだけ。

もっとも、これを「最低地上高だけが特別扱い」と読むのは行き過ぎでした。前後の節も取ってきて数えたら、8-2から8-8までの7つが全部[審査事項なし]だったからです。

節(第7章・第8章の合本PDF) PDF全体の文字数 [審査事項なし]
7-2、8-2 長さ、幅及び高さ 12,258文字 1件
7-3、8-3 最低地上高 1,646文字 1件
7-4、8-4 車両総重量 868文字 1件
7-5、8-5 軸重等 7,233文字 1件
7-6、8-6 安定性 5,449文字 1件
7-7、8-7 最小回転半径 2,380文字 1件
7-8、8-8 接地部及び接地圧 725文字 1件
7-22、8-22 緩衝装置 3,855文字 0件
7-28、8-28 車枠及び車体 25,441文字 0件

対照として、装置側の 8-22(緩衝装置・3,855文字)と 8-28(車枠及び車体・25,441文字)も数えましたが、こちらは0件でどちらも本文があります。落ちているのは「構造」のブロックまるごとで、最低地上高はその一員だった、というのが正確なところです。

理屈としては素直だと思います。構造をいじっていない車の寸法は、前の検査から変わりようがない。だから改めて当てる基準を置いていない、という組み立てです。

それでも継続検査の項目表からは消えていない

では車検で最低地上高はまったく見られないのか、というと、そうではありませんでした。検査をどう実施するかを決めている第4章のほうに、きちんと残っています。

4-7-1-2 継続検査
(2)構造に関する審査(その2)
次に掲げる事項について、視認その他適切な方法により審査するものとする。
① 最低地上高 ② 最大安定傾斜角度 ③ 最小回転半径

審査事務規程 第4章 4-7-1-2

「視認その他適切な方法」。継続検査での最低地上高は、見て判断する項目として項目表に載っています。

新規検査や構造等変更検査の側(4-7-1-1)はもう少し具体的で、「3次元測定・画像取得装置、車高測定機、重量計、傾斜角度測定機、巻尺等を用いて審査する」と器具まで書いてありました。ただしそこにも但し書きがあって、長さ幅高さ・車両重量・車輪にかかる荷重以外は視認等で容易に判定できるときに限り視認等でよい、とされています。最低地上高はこの「以外」の側です。

整理すると、こうなります。

  • 基準の側(第7章・第8章)… 改造のない使用過程車には当てる基準が無い(8-3)。9cmと式は7-3にしかない
  • 実施の側(第4章)… 継続検査でも項目として見る。ただし方法は「視認その他適切な方法」

「車検で最低地上高は測られない」とも「9cmを測られる」とも言い切れない、というのが原文を読んだ結論でした。すっきりしない書き方になって申し訳ないのですが、条文がそうなっている以上、どちらかに寄せると嘘になります。

検査場の掲示に、名指しの一行がある

第4章にはもうひとつ、現場の空気が出ている箇所がありました。自動車検査場に掲示する注意事項の文例です。

エ 最低地上高の低い車両、幅の広いタイヤ(扁平率 50%以下)を装着した車両で受検する方は、検査担当者に申し出てください。

審査事務規程 第4章 4-2(検査コースの受検時の注意事項)

マルチコース・大小兼用コース向けと二輪コース向けの2か所に、ほぼ同じ文が置かれています。

法令の条文ではなく掲示の文例なのですが、扱いとしては分かりやすい。下げている車は、黙って列に並ぶのではなく先に言ってください、という運用になっているわけです。実際、テスタのローラに乗り入れる前に引っかかったら、そこで止まってしまいますから。

これも7本の競合記事には1件も出てきませんでした。

ローダウンの「4cm」は、最低地上高の話ではない

最後に、混ざりやすいものをひとつ。`ローダウン 車検 4cm` という検索が実際にあるのですが、この4cmは最低地上高とは無関係です。

出どころは平成7年11月16日付けの依命通達「自動車部品を装着した場合の構造等変更検査時等における取扱いについて」(自技第234号・自整第262号)で、こういう表が載っています。

項目 範囲
長さ ±3cm
±2cm
高さ ±4cm

この「高さ」は自動車検査証に記載されている値、つまり全高です。車高を下げて全高が4cmを超えて変われば、車検証の記載事項が変わったことになる、という話で、地面との隙間の話ではありません。通達の全文を数えても「最低地上高」は0件でした。

紛らわしいのは、軸距の式にも「+4」が入っていることです。H=Wb・1/2・sin2°20′+4 の4はcm単位の定数で、±4cmとはまったく別物。数字が同じなので、検索結果で混ざります。

ついでに拾っておくと、この通達はショック・アブソーバを「指定部品」として名指ししています。指定部品を固定的取付方法で装着した場合は、車検証の記載事項の変更に当たらないものとする、という扱いです(部品の全リストは別途定めるとされていて、通達本文には「エア・スポイラ、ルーフ・ラック、ショック・アブソーバ、トレーラ・ヒッチ等」までしか書かれていません)。

そしてこの通達は、継続検査の手順に組み込まれています。第4章の4-7-1-2(1)が、長さ幅高さと車両重量について「平成7年11月16日付け自技第234号自整第262号(略)を踏まえて審査する」と名指ししていました。全高は(1)で通達つきで見られ、最低地上高は(2)で数字なしに見られる。同じ「車高を下げた」でも、当たる規定が別のところにあります。

もうひとつ、数字が動いていないことも書いておきます。最低地上高の条文PDFに国土交通省が付けている日付は、第7条・第85条・第163条とも【2003.9.26】でした。同じ章の第5条と第83条は【2025.1.10】、長さ幅高さの第6条は【2023.9.22】です。審査事務規程の側も、7-3/8-3の最終改正が第13次で、長さ幅高さの7-2や第4章の第74次、制動灯の7-88の第64次と比べるとほとんど触られていません。9cmがいつからか、という問いへの答えとしては、少なくともこの形になってからは動いていない、というところまでです。なぜ9なのかを説明した資料は、探した範囲では見つかりませんでした。

自分で測るなら、条件のほうを先に揃える

ここまでの話で、測る意味があるのは車高を下げている人だけ、ということになります。その人が自分で確かめるなら、順番としては道具より先に条件です。空車状態、規定の空気圧、舗装された平面、車高調整装置は中立。この4つが崩れていると、出てきた数字は条文の言う地上高になりません。

カースロープ(ローダウン車対応のもの)

条文が指定している測定条件は「舗装された平面に置き」です。ジャッキで片側だけ上げると、その条件から外れてしまいます。車体の下を覗くために持ち上げるなら、4輪が同じ高さのまま上がるタイプでないと、測った数字の意味が変わります。車高を下げている車ほど、乗り上げの角度が浅いものを選ばないと先にバンパーが当たります。

※ この道具で測った値が基準内でも、車検に通ることを保証するものではありません。合否の判断は検査を行う側にあります(2026年9月時点)。

そして測る前に、いちばん低い部位がどれかを見つける必要があります。条文は部位の例示をしていません。マフラーのタイコ、デフケース、オイルパンあたりが候補として挙げられることが多いのですが、それは条文に書かれていることではなく、経験則です。自分の車のどこが最下点なのかは、結局のところ覗いて探すしかありません。

走っているのはほぼ都内で、路面で苦労した記憶もありません。ただ、ここまで条文を細かく追っても、最後は下を覗き込まないと確かめようがない。そこだけは机の上で片づかないな、と思いました。

よくある質問

車検の最低地上高は結局9cm以上でいいのですか

車高を下げていない車であれば、そもそも測定の話になりません。細目告示第163条第1号が「指定自動車等と同一と認められる自動車」を適合として扱うためです。第2号の9cmは「最低地上高が低くなるような改造がされた自動車」に向けて書かれています。下げている場合は9cm(全面)に加えて、軸距間と前後それぞれの式も満たす必要があります(2026年9月時点の版)。

最低地上高の9cmは、どの法令の何条に書いてありますか

保安基準第3条には書かれていません。9cmが出てくるのは保安基準の細目を定める告示で、車検(継続検査)に当たるのは第3節の第163条です。新規検査等に当たる第2節は第85条で、条番号と用語の定義句を除けば第163条と同じ文章でした。検査を行う側の文書としては、審査事務規程7-3に同じ内容が置かれています。

アンダーカバーが付いていれば5cmでいいというのは本当ですか

条文にその読み替えはあります。ただし条件は「保安上重要な装置を保護するための機能を有するアンダーカバー等が装着されている構造」であることで、対象は当該部位だけです。また読み替えが効くと満たすべき基準が(ア)と(イ)になり、前後のオーバーハングの式(ウ)は外れます。マッド・ガードやエアダム・スカートが樹脂製なら5cm、という説明を見かけますが、これらは5cmではなく測定から除く部分として別に列挙されています。

ホイールベースが長いと最低地上高の基準も上がりますか

軸距間についてはそうなります。H=Wb・1/2・sin2°20′+4 で、sin2°20′は条文が0.04と指定しているので、軸距250cmでちょうど9.00cm、300cmで10.0cm、350cmで11.0cmです。ただし審査事務規程7-3に「判定値は、1cm未満は切り捨て、cm単位とする」とあるため、軸距250cmから299cmまでは切り捨てて9cmになります。軸距2,890mmの車で計算すると9.78cmで、切り捨てると9cmでした。

ローダウンで車検に通らなくなる「4cm」とは何ですか

最低地上高の規定ではありません。平成7年11月16日付け依命通達(自技第234号・自整第262号)にある、自動車検査証に記載されている長さ・幅・高さに対する許容範囲で、長さ±3cm、幅±2cm、高さ±4cmです。この高さは全高を指します。通達の全文に「最低地上高」は出てきません。軸距の式に出てくる「+4」とも別物です。

エアサス車は車検のときに車高を上げておけばいいのですか

条文はそう書いていません。測定条件の3つ目が「車高調整装置が装着されている自動車にあっては、標準(中立)の位置とする。ただし、車高を任意の位置に保持することができる車高調整装置にあっては、車高が最低となる位置と車高が最高となる位置の中間の位置とする」です。最高位置で測る想定にはなっていません。実際の運用については、受ける前に整備工場か検査を行う事務所に確認してください。

まとめ

  • 保安基準第3条は全文68文字で、9という数字が無い。「告示で定める間げき」で終わっている
  • 細目告示は同じ「最低地上高」を3本持っている。第1節=第7条(122文字・数字ゼロ)、第2節=第85条、第3節=第163条
  • 車検(継続検査)に当たるのは第3節=第163条。第85条との違いは条番号と定義句の2か所だけだった
  • 9cmは第2号の中にあり、その第2号が名指ししているのは「最低地上高が低くなるような改造がされた自動車」。競合7本すべてでこの語は0件
  • 判定は3つ。(ア)全面9cm以上/(イ)軸距間の式/(ウ)前後の式。「軸距間だけ」ではない
  • 「判定値は1cm未満切り捨て」は審査事務規程にしかない(告示は0件)。軸距299cmまでは式の答えが9cmに丸まる
  • 樹脂製のマッド・ガード等は測定から除く部分。5cmへの読み替えはアンダーカバー等が装着されている構造の話で、別の規定
  • 改造のない使用過程車の章は 8-3[審査事項なし]。ただし8-2〜8-8の7つが全部そうで、最低地上高だけの特別扱いではない
  • それでも第4章 4-7-1-2(2)①に項目として残っていて、方法は「視認その他適切な方法」
  • `ローダウン 車検 4cm` の4cmは車検証の全高の話。平成7年の依命通達で、最低地上高は0件

調べ始めたときは「9cmの根拠条文を1本見つけて終わり」のつもりでした。実際には、9cmは保安基準にも新車の条文にもなくて、改造した車のために書かれた数字で、しかもその答えをもう一度丸める一文が別の文書にある。ここまで分かれているとは思っていませんでした。

そして、いちばん効くのは順番でした。吊るしのまま乗っている車が9cmに引っかからないのは、「地上高が足りているから」ではなく、その手前の第1号で片がついているからです。270mmあるかどうかを確かめるより先に、条文は「指定自動車等と同一と認められるか」を見ている。同じ結論に見えて、通り道がまるで違います。

最後に一点。開いたのは2026年9月12日に各サイトへ置かれていた版で、告示も規程も通達も改正が入ります。それに、当日の合否を決めるのは検査を行う側であって、ここで数えた文字数や引用ではありません。車高に手を入れるつもりなら、先に整備工場へ相談してください。

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