「マフラーは何dBまでなら車検に通るのか」。これに一言で答えられなくなったのは、2016年10月からです。
正確に言うと、答えが厳しくなったのではなく、車種ごとに決まった上限という考え方そのものが無くなりました。いまの上限は車1台ごとに違っていて、自分の車の数字は車検証を見ないと分かりません。
発炎筒の「有効期限4年」を条文の中に探して、保安基準にも細目告示にも書かれていなかったという話を前に書きました。今回も入口は似ています。ただ、行き着いた先はもう少し厄介でした。
保安基準の第30条を開くと、数字が1つも出てこない
車の騒音について定めているのは、道路運送車両の保安基準の第30条です。条文はこれだけです。
自動車(被牽引自動車を除く。以下この条において同じ。)は、騒音を著しく発しないものとして、構造、騒音の大きさ等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない。
2 内燃機関を原動機とする自動車には、騒音の発生を有効に抑止することができるものとして、構造、騒音防止性能等に関し告示で定める基準に適合する消音器を備えなければならない。
3項まで読んでも、dBという単位は一度も出てきません。「告示で定める基準」と書いてあるだけです。
この構造自体は珍しくなくて、デイライトのときも、タイヤの残り溝1.6mmのときも同じでした。省令は枠だけ作って、数字は告示に置く。なので探しに行く先は細目告示になります。
具体的には、細目告示の第40条・第118条・第196条・第252条・第268条・第284条が騒音防止装置の条文です。条番号が6つあるのは、新型車・使用過程車・並行輸入車といった区分ごとに同じ内容が並んでいるからで、中身が6種類あるわけではありません。
「何dBまで」の答えが消えたのは、新車の規制がやめになったから
ここからが本題です。国土交通省が改正の内容を説明した文書に、はっきり書かれていました。
協定規則第 51 号においては、新車時には近接排気騒音の測定のみを行っているため、新車時の近接排気騒音規制は廃止し、測定のみを行うこととします。
新車の段階での近接排気騒音の規制は廃止されました。ただし測定はする。この「規制はしないが測りはする」というのが、後の話に全部効いてきます。
なぜ規制をやめたのか。同じ文書によると、四輪車の車外騒音について国連の協定規則第51号を採用することになり、走行実態に近い加速走行騒音のほうで規制する形に切り替わったからです。近接排気騒音は、そもそも加速走行騒音を使用過程で測るのが現実的に難しいことの代替手段として昭和61年に導入されたものでした。
近接排気騒音については、その値が大きくなると、加速走行騒音の値も大きくなるといった関係にある。このため、近接排気騒音規制は、使用過程時における加速走行騒音規制の代替手段として、使用過程時においても新車時の加速走行騒音性能が維持されているかを判断できる手法である。
代替手段だった、というのが個人的にはいちばん腑に落ちた部分でした。近接排気騒音は目的ではなく、測りやすさのために置かれた指標だったわけです。
いまの上限は「新車のときに測った値+5dB」
では使用過程の車はどうなるのか。ここで相対値規制という言葉が出てきます。
使用過程車に対する近接排気騒音規制は、これまで車両の種別毎に一律の規制値を設けて規制する手法(以下「絶対値規制」という。)により行っていましたが、車両の型式毎に新車時に測定された値と同等の近接排気騒音値を求める規制手法(以下「相対値規制」という。)に移行します。
― 同上
そして具体的な数字は、規制の推移をまとめた資料のほうに書いてあります。
近接排気騒音値が、新車時に確認した騒音値+5dBの値以下であること
つまり上限は「新車のときのその車の値 + 5dB」です。新車時に測るだけ測って規制はしない、と言っていたあの測定値が、そのまま基準の土台になります。
ここが一律で答えられない理由
基準値が車両の型式ごとに違うので、「乗用車は◯◯dBまで」という言い方が成立しません。自分の車の値は、自動車検査証(車検証)の備考欄に記載されます。数字を知りたい場合は、そこを見るのがいちばん早いです。
なお、備考欄の表記そのものについては、複数の整備業者のサイトが具体的な文言を紹介しているものの、私が国交省や機構の資料の中から同じ文言を見つけることはできませんでした。記載されること自体は上記の改正文書で裏が取れているので、そこまでを書いています。
効き始める日が、年式ではなく区分で割れている
サジェストを見ると、`マフラー 車検 年式`・`車検 音量規制 年式`・`近接排気騒音 年式` と、どの入口からも「年式」が出てきます。読者が知りたいのは結局そこなんだと思います。
ところが、適用日は年式では割れていません。同じ資料の適用日の表がこうなっています。
| 区分 | M及びNカテゴリ(四輪の乗用車・貨物車) |
|---|---|
| 新型自動車(輸入自動車を除く) | 平成28年10月1日以降 |
| 上記以外のもの | 令和4年9月1日以降(N2カテゴリは令和5年9月1日以降) |
読み方の要点は、括弧の中です。「新型自動車(輸入自動車を除く)」なので、輸入車はこの行に入りません。輸入車は「上記以外のもの」に落ちて、令和4年9月1日以降になります。
私はG400dに乗っているので、ここは自分の話として確かめました。同じ2016年でも、国産の新型車として出た車と、輸入されてきた車では、相対値規制が効き始める時期が6年ずれることになります。
この「輸入車だけ開始時期が違う」という形は、OBD検査のときとまったく同じでした。あちらも輸入車の開始は2025年10月で、国産車と別の日付が振られています。
少し気になるのは、この表が「新型自動車」「上記以外のもの」という書き方で、自分の車がどちらなのかを車検証から直接読み取る方法までは示していないことです。初度登録年月だけでは判断しきれません。ここは販売店かディーラーに聞くのが確実だと思います。
「いつ登録した車に効くのか」を条文の側から追いかけた話は、ナンバープレートの記事で一度やっています。適用関係の読み方はあちらのほうが詳しいです。
昔の車まで遡って厳しくなるわけではない
ここは安心していい部分です。同じ改正文書に、はっきり書いてあります。
ただし、これまで絶対値規制が適用されていた使用過程車については、相対値規制を遡及適用せず、従前通り、絶対値規制を適用します。
また、純正マフラーを現行のマフラー性能等確認制度等により性能等が確認されたマフラーに交換したものにあっては、当面、絶対値規制を継続することとします。
― 同上
古い車は古い規制のまま、という整理です。しかも性能等確認済みのマフラーに換えてある車も、当面は絶対値規制が続きます。
ではその絶対値はいくつなのか。これは書けませんでした。細目告示の別表そのものに辿り着けず、二次情報のあいだで数字が食い違っていたからです。乗用車について91dBと書いている記事もあれば、96dBと書いている記事もありました。どちらが正しいか確認できないものを、それらしい範囲にして載せるのはやめておきます。自分の車の数字を知りたい場合は、やはり車検証か、車検を受ける工場に聞くのが早いです。
ところが、車検の規程には「近接排気騒音」が出てこない
ここからが、今回いちばん意外だった部分です。
車検で実際に何を見るかを決めているのは、保安基準そのものではなく、独立行政法人自動車技術総合機構の審査事務規程です。その中の「乗用車及びトラック・バスの騒音防止装置」の章(7-56、8-56)を最新版でダウンロードして、全文を検索しました。33ページあります。
| 語 | ヒット数 |
|---|---|
| 近接排気騒音 | 0件 |
| 相対値 | 0件 |
| 騒音計・音量計 | 0件 |
| 加速走行騒音 | 149件 |
| 性能等確認済表示 | 13件 |
「近接排気騒音」という言葉が、この章の本文に1度も出てきません。 章が繰り返し求めているのは、加速走行騒音を有効に防止する消音器であること、そしてそれを表示で確認することです。
一応補足しておくと、同じ規程には別添9「近接排気騒音の測定方法(絶対値規制適用時)」と別添10「同(相対値規制適用時)」があり、どちらも見出しに「(7-56、8-56関係)」と書かれています。ですから近接排気騒音が審査と無関係というわけではありません。
ただ、本文の側から別添9・別添10への参照を見つけることはできませんでした。本文が参照している別添は39・40・112の3つだけです。別添9・10の側は「最終改正:第35次」で、本文の第74次より古いままになっています。これが改正漏れなのか、意図があってこうなっているのかは、資料からは判断できません。分からないので、分からないと書いておきます。
無改造の車の車検で見られるのは、4項目だけだった
審査事務規程は、第7章と第8章が左右の段に並ぶ形で書かれています。第7章が「新規検査、予備検査、継続検査又は構造等変更検査」、第8章が同じ検査のうち「改造等による変更のない使用過程車」です。つまり、いじっていない車の車検は第8章を見ることになります。
この2つを並べると、消音器の視認項目の数が違いました。
| 視認等による審査の項目 | 第7章(7-56-2-1) | 第8章(8-56-2) |
|---|---|---|
| ① 消音器の全部又は一部が取外されていないこと | あり | あり |
| ② 消音器本体が切断されていないこと | あり | あり |
| ③ 消音器の内部にある騒音低減機構が除去されていないこと | あり | あり |
| ④ 消音器に破損又は腐食がないこと | あり | あり |
| ⑤ 騒音低減機構を容易に除去できる構造でないこと | あり | なし |
| 書面等による審査(加速走行騒音・表示の確認) | 7-56-2-2 にあり | 8-56-3・8-56-4 とも「欠番」 |
第8章に残っているのは①から④までの4項目で、⑤がありません。さらに、第7章にある「書面等による審査」に対応する 8-56-3 と 8-56-4 は、条文ごと欠番になっています。
これは発炎筒のときとまったく同じ形でした。あのときも、第7章では6号あった不適合の列挙が第8章では2号に減っていて、有効期限を判定する根拠になる号が落ちていました。
念のため書いておくと、この規程はPDFが2段組なので、単純にテキストを抜き出すと左右の段の文章が混ざります。⑤がどちらの段にあるのか、最初は判別できませんでした。文字の座標を取り出して段を分けたうえで確認しています。左段(第7章)のx座標が70、右段(第8章)が330で、⑤は左段にしか存在しませんでした。
つまり、改造していない車の車検において、マフラーについて規程が求めているのは「見て4つ確認する」ことだけ、という読み方になります。音量計を当てる手順は、この章には書かれていません。
実際の分かれ目は、マフラーに「表示」があるかどうか
とはいえ、社外マフラーを付けている車が無条件に通るという話ではありません。改造している時点で第8章ではなく第7章の側に行きますし、第7章には書面等による審査があります。
そこで確認されるのが表示です。平成22年の改正で整理されて、次のどれかがあれば基準に適合するもの、という扱いになりました。
| 表示 | 内容 |
|---|---|
| 純正品表示 | 型式指定自動車等の製作者が、その車に備える消音器に行う表示 |
| 装置型式指定品表示(自マーク) | 装置型式指定を受けた騒音防止装置に表示される特別な表示 |
| 性能等確認済表示 | 登録を受けた機関が性能等を確認した後付消音器に表示されるもの |
| Eマーク | 国連欧州経済委員会規則(ECE規則)適合品表示 |
| eマーク | 欧州連合指令(EU指令)適合品表示 |
出典は国土交通省「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示等(自動車騒音関係)の一部改正(案)について」です。表示が無い場合でも、公的試験機関の試験結果で加速走行騒音が82dB以下(原動機付自転車は79dB以下)であることが明らかなら適合とされます。
そして国交省のリーフレットには、こう書かれています。
平成28年10月以降に製作される自動車等は運行中にこれらの表示や試験成績表等が確認できない場合、基準不適合となります。
車検のときだけではなく運行中に、と書いてあるのが目を引きます。音が静かかどうかではなく、表示が確認できるかどうかが判定に使われる。ここは正直、直感とはずれる部分でした。
なお `マフラー 車検 jasma` というサジェストがよく出ますが、JASMA(日本自動車スポーツマフラー協会)の刻印は、上の性能等確認済表示を出せる登録機関のひとつという位置づけです。JASMAという名前そのものが法令に出てくるわけではありません。
自分で確かめられるのは、腐食と破損くらい
4項目のうち、①取外し・②切断・③騒音低減機構の除去は、自分でやっていなければまず該当しません。実質的に読者が自分で見ておけるのは④の「破損又は腐食がないこと」だけです。
とくに融雪剤を撒く地域を走る車と、10年選手の車は、マフラーの腐食が進みます。私は都内中心なので極端な環境ではありませんが、それでも下回りは自分では見えない場所です。車検前に一度覗いておくと、当日に慌てなくて済みます。
下回りを覗くだけなら、柄の長い点検ミラーがあると早いです。LEDが付いているものだと、日中でも影になる部分が見えます。
表面の錆が浮いてきた段階なら、耐熱塗料で止めておくという手もあります。ただし穴が開いてしまったものは塗って直る話ではありません。そこまで行っていたら交換です。塗装で隠すのは、④の判定を誤魔化す方向にしかならないので、やらないほうがいいと思います。
テールエンドのくすみを落としたいだけなら、ステンレス用のコンパウンドで十分です。これは車検とは関係のない、単なる見た目の話ですが。
車検そのものにいくらかかるかは、輸入車の実額を別記事にまとめてあります。前に乗っていたC43の初回車検が、ヤナセで127,666円でした。内訳はそちらに置いてあります。
通らなかったときに何が起きるか
不正改造にあたると判断された場合の扱いは、国交省のリーフレットに書かれています。
| 対象 | 内容 |
|---|---|
| 不正改造車の使用者 | 整備命令の発令 → 従わない場合は50万円以下の罰金 |
| 不正改造を実施した者 | 6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
整備命令がまず出て、それに従わなかった場合に罰金という順です。いきなり罰金ではありません。
調べていて分からなかったこと
書ける範囲と書けない範囲をはっきりさせておきます。
- 絶対値規制の具体的なdB値。細目告示の別表そのものに辿り着けませんでした。二次情報どうしで数字が食い違っていたので、載せていません
- 車検証備考欄の正確な文言。記載されること自体は改正文書で確認できましたが、文言を一次資料で確認できていないので引用していません
- 別添9・別添10が本文から参照されていない理由。事実としては確認しましたが、理由は資料から読み取れませんでした
それと、四輪の交換用マフラーの相対値規制について、公布・施行を「平成28年11月」と書いている媒体をいくつか見かけました。国交省の報道発表を確認すると、四輪自動車等は平成30年11月30日、二輪自動車等は平成29年12月13日でした。平成28年10月1日というのは、規制そのものの適用開始日であって、交換用マフラーの取扱い見直しの日付ではありません。ここは混ざりやすいところだと思います。
よくある質問
マフラーを換えると必ず車検に通らなくなりますか
そうとは限りません。純正品表示・自マーク・性能等確認済表示・Eマーク・eマークのいずれかがある消音器であれば、基準に適合するものとして扱われます。逆に、表示のない社外品は、公的試験機関の試験成績表がないと確認できないことになります。
車検で音量を測られますか
無改造の使用過程車について言えば、審査事務規程の第8章に音量を測る手順は書かれていません。8-56-2 の視認4項目だけです。ただし改造がある場合は第7章の側になりますし、街頭検査など車検以外の場面は別の話です。測られないから何をしてもいい、という意味ではありません。
自分の車の上限値はどこを見れば分かりますか
平成28年騒音規制の対象車であれば、自動車検査証(車検証)の備考欄に記載されます。それ以前の車は絶対値規制のままなので、車検を受ける工場に確認するのが確実です。
輸入車は国産車と扱いが違うのですか
相対値規制が効き始める時期が違います。国交省の表では「新型自動車(輸入自動車を除く)」が平成28年10月1日以降、「上記以外のもの」が令和4年9月1日以降となっていて、輸入車は後者に入ります。
マフラーカッターを付けても大丈夫ですか
消音器の騒音低減機構に手を加えるものでなければ、視認4項目のどれにも該当しません。ただし、脱落しそうな付け方や、排気の向きを大きく変えるものは別の基準に触れる可能性があります。取り付けの状態次第なので、一律に大丈夫とは言えません。
まとめ
・保安基準第30条にdBの数字は無く、基準は細目告示に委任されている
・平成28年規制以降は相対値規制。上限は「新車時に測った値+5dB」で、車ごとに違う
・適用日は年式ではなく区分で割れる。輸入車は令和4年9月1日以降
・古い車に遡って適用はされない。従前どおり絶対値規制のまま
・無改造の車の車検で消音器に当たるのは、審査事務規程 第8章の視認4項目だけだった
「何dBまで」を知りたくて調べ始めて、最後に残ったのが「車検証を見てください」だったのは、我ながら少し拍子抜けする結論でした。ただ、規制の作り方としては筋が通っています。車ごとに静かさの水準が違うのだから、一律の線を引くより、その車が新車のときからどれだけ悪化したかで見るほうが理屈に合う。そういう設計に切り替わった、という話でした。
保安基準から細目告示への委任という同じ構造は、デイライトのときにも追いかけています。
※本記事は2026年8月時点で公開されている法令・告示・審査事務規程および国土交通省・環境省の資料に基づいて作成しています。情報提供を目的としており、特定の商品やサービスの勧誘を目的とするものではありません。個別の車両が基準に適合するかどうかの判断は、車検を受ける指定工場・認証工場または運輸支局にご確認ください。制度は改正される場合があるため、実際の手続きの際は最新の一次情報をご確認ください。
同じ審査事務規程でも、第7章と第8章に差が無い装置もありました。タイヤのはみ出し(回転部分の突出)がそれで、違うのは引用している細目告示の条番号だけでした。
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