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車検の条文に「巻き取り」という言葉は無い。20年前に消されていた

Mercedes-Benz G400d の運転席まわり。シートベルトと座席の位置関係 Car|車
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シートベルトの警告灯が車検でどう見られているのかを、同じ日に別の記事で書きました。審査事務規程の 7-45 と 8-45 という節です。

その隣に 7-44/8-44「座席ベルト等」があって、こっちはベルト本体と取付装置の話でした。せっかく開いたので、ついでに読んでみたんです。

そうしたら、探していた語が見つかりませんでした。24ページの節を全文検索して、「巻取」も「巻き取り」も0件。「リトラクタ」も0件です。

シートベルトが巻き取らないと車検に通らない、という説明はあちこちで見ます。でも条文の側は、その言葉を使っていませんでした。

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検索して0件だったもの、そうでなかったもの

先に数えた結果を置きます。審査事務規程 7-44/8-44(最終改正:第74次)のPDFは、左に第7章、右に第8章が並ぶ2段組です。文字のx座標で左右に振り分けて、列ごとに数えました。

数えた語 第7章(7-44) 第8章(8-44)
節の全体 40,565字 4,595字
現行部分(-1と-2だけ) 9,199字 3,012字
「巻取」 0件 0件
「巻き取」 0件 0件
「リトラクタ」 0件 0件
「擦過痕」 13件 1件
「損傷」 31件 2件
「UNR16」 22件 0件
「JIS D4604」 7件 0件
「4点」「四点」 0件 0件
「プリテンショナ」「エアバッグ」 0件 0件

まず目につくのが、第7章が40,565字あるのに第8章は4,595字しかないことです。9分の1。現行部分だけに絞っても9,199字と3,012字で、3分の1になります。

第8章は「改造等による変更のない使用過程車」向けで、普通に乗っている車の車検で当たるのはこちらです。つまり、車検で見る部分は最初から短い。

そして第8章には、UNR16 も JIS D4604 も一度も出てきません。第7章には22件と7件あるのに、です。

車検側が求めているのは、4つだけだった

8-44-2「性能要件(視認等による審査)」を、そのまま書き出します。長くないので全部載せます。

取付装置について。

①当該自動車の衝突等によって座席ベルトから受ける荷重に十分耐えるものであること。②振動、衝撃等によりゆるみ、変形等を生じないようになっていること。出典: 審査事務規程 7-44、8-44 座席ベルト等(最終改正:第74次)

ベルト本体について。

①当該自動車が衝突等による衝撃を受けた場合において、当該座席ベルトを装着した者に傷害を与えるおそれの少ない構造のものであること。②容易に、着脱することができ、かつ、長さを調整することができるものであること。

以上です。4項目しかありません。

しかも、この4項目には抜け道が用意されています。

(5)座席ベルトの取付装置であって損傷のないものは、(1)及び(2)の基準に適合するものとする。(細目告示第186条第5項、第9項関係)

(7)座席ベルトであって装着者に傷害を与えるおそれのある損傷、擦過痕等のないものは、(2)及び(5)に掲げる基準に適合するものとする。(細目告示第186条第7項、第11項関係)

損傷が無ければ適合とみなす。擦過痕が無ければ適合とみなす。 荷重に耐えるかどうかを引っ張って確かめるわけではなく、見て傷んでいなければ通る、という組み立てです。

ここが第7章と決定的に違うところで、7-44-2 の見出しは「性能要件(書面等による審査)」です。新規検査の側は、取付装置が UNR14-09-S4 の5.、6.及び7.に適合していることを書面で確かめる。衝突試験の規格です。

第7章(新規検査など) 第8章(改造のない使用過程車)
見出し 性能要件(書面等による審査) 性能要件(視認等による審査)
取付装置に求めるもの UNR14-09-S4 の5.、6.及び7.に適合 荷重に耐える/ゆるみ・変形を生じない
ベルトに求めるもの UNR16 系の基準(22件が本文に登場) 傷害のおそれが少ない構造/容易に着脱でき長さを調整できる
みなし規定 指定自動車等と同一構造・同一位置で損傷のないもの 損傷のないもの/擦過痕等のないもの

同じ装置なのに、確かめ方が書面と目視で分かれている。この形は他の装置でも何度か見てきましたが、ベルトはその差がとくに大きい部類でした。

では「巻き取り」はどこへ行ったのか

条文に無いなら、最初から無かったのか。そうではありませんでした。

細目告示には「別添」という付属文書の束があって、その32番が「座席ベルトの技術基準」です。ファイルを開くと、1行目にこう書いてあります。

道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2003.09.26】別添32(座席ベルトの技術基準)2006.08.25削除出典: 国土交通省「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示 別添32(座席ベルトの技術基準)」

削除済みの文書です。それでも国交省のサイトに残っていて読めます。

全文13,509字。ここに「巻取」が44件ありました。しかも用語として定義されています。

別添32の項 定義
2.11. 巻取装置 座席ベルトのうち、帯部の一部又は全部を巻き取り、収納する装置
2.12. NLR(非ロック式巻取装置) ロック機構のないもので小さな外力によって帯部を全部引き出すことができる巻取装置であって、帯部を全部引き出した状態で拘束力を保持するもの
2.13. ALR(自動ロック式巻取装置) 小さな外力によって帯部を引き出すことができる巻取装置であって、帯部の引き出し操作を任意の位置で停止したときにその付近で自動的にロックし、拘束力を保持するもの
2.14. ELR(緊急ロック式巻取装置) 小さな外力によって帯部を引き出すことができる巻取装置であって、緊急の場合に、自動車の加速度、巻取装置からの帯部の引き出し加速度又はその他の要因によりロックし、拘束力を保持するもの
2.16. プリテンショナ装置 衝突時に座席ベルトの帯部を引き締める装置

いま乗っている車のベルトは、ほぼ全部が ELR です。急ブレーキで体が前に出るとロックして、普段はするする出る。あの挙動には2006年に消えた文書に名前が付いていたわけです。

現行の 7-44 が代わりに参照しているのは、国連の協定規則(UNR16 系)のほうです。別添32がなぜ削除されたのかを書いた資料は見つけられませんでした。ヘッダーに「2006.08.25削除」とあることしか言えません。

「巻き取らない」は、条文のどこに当たるのか

ここが本題です。巻き取りに直接触れた条文は無い。では巻き取らないベルトは何に引っかかるのか。

近いものは2つしかありません。

1. 8-44-2(2)②「容易に、着脱することができ、かつ、長さを調整することができるものであること」

2. 8-44-2(7) の「傷害を与えるおそれのある損傷、擦過痕等のないもの」というみなし規定

巻き取らないだけで長さの調整ができるなら、1番目は満たしていると読めます。逆に、途中で引っかかって出ない・戻らないという状態なら、調整できているとは言いにくい。そこの線引きは条文に書かれていません。

正直に言うと、ここは条文からは答えが出ませんでした。「巻き取らないと落ちる」と断言している記事も、「問題ない」と書いている記事も、どちらも条文を根拠にはできないはずです。

ひとつ確かなのは、検査で見るのは「損傷と擦過痕」だという点。ベルトを全部引き出して、ほつれや切れ目、当て布のような擦れが無いかを見る。この作業は自分でもできます。

切ったベルトは、当然その基準に当たる

以前、冠水した道に入ってしまったときにどうするかを調べて書いたことがあります。JAFの手順は「シートベルトを外す → 窓が水面より高ければ屋根に上る → どちらも無理なら緊急脱出用ハンマーでガラスを割る」で、ハンマーはシートベルトカッターが付いているタイプがその手順とそのまま噛み合う、と書きました。

そのカッターを一度でも使ったら、当然ベルトは交換です。8-44-2(7) の「傷害を与えるおそれのある損傷」に、切断以上に分かりやすい例はありません。

年式の分岐が10段階ある

「シートベルト 車検」と入れると、サジェストに「年式」と「旧車」が出てきます。条文の側もそこは細かく、7-44-4「適用関係の整理」に従前規定が10個並んでいました。警報装置(7-45)が5個だったので、倍です。

古いほうから抜き出します。

従前規定 対象となる自動車(抜粋)
昭和44年3月31日以前に製作された乗用車(軽自動車を除く)/昭和44年9月30日以前のそれ以外/昭和50年11月30日以前の普通貨物/昭和62年8月31日(輸入自動車は昭和63年3月31日)以前の乗車定員11人以上
昭和50年3月31日以前に製作された自動車
昭和62年8月31日(乗用10人以下の国産車は昭和62年2月28日、輸入自動車は昭和63年3月31日)以前
平成6年3月31日(輸入自動車は平成7年3月31日)以前
平成24年6月30日以前
平成24年7月21日以前(貨物は平成28年7月21日以前)
平成29年7月25日以前
令和3年11月14日以前(車両総重量12t超で乗車定員10人以上の乗用車は平成30年11月14日以前)
令和2年8月31日以前ほか/令和2年9月1日から令和4年8月31日(輸入自動車は令和5年3月31日)までに製作されたもの
令和8年8月31日以前ほか

そして ① に当たる車は、こうなります。

7-44-5-1 装備要件 なし。
7-44-5-2 性能要件 なし。

昭和44年3月31日、つまり1969年3月31日より前に作られた乗用車(軽を除く)には、座席ベルトそのものが要りません。 厳密には、この従前規定が適用される限りにおいて、ですが。旧車のオーナーが車検でベルトを問われないのは、ここが根拠です。

輸入車だけ日付がずれる箇所が3つある

この表を見ていて、外車に乗っている身として引っかかったのが輸入自動車の但し書きです。3か所あります。

  • ①と③の「昭和62年8月31日(輸入自動車にあっては昭和63年3月31日)」— 約7か月遅い
  • ④の「平成6年3月31日(輸入自動車にあっては平成7年3月31日)」— 1年遅い
  • ⑨の「令和4年8月31日(輸入自動車にあっては令和5年3月31日)」— 7か月遅い

同じ日に書いた警報装置の記事では、輸入車の別扱いは1か所しかありませんでした。装置ごとに違うんですね。一律に「外車は1年遅れる」という理解はできません。

私の場合、C43に乗り始めたのが2019年3月で、いまのG400dが2023年8月からです。どちらも⑨か⑩の側で、古い従前規定は当たりません。この表が効いてくるのは、もっと前の車を買うときです。

条文は「4点式」を知らない

サジェストに「4点式シートベルト 車検 対応」が出るので、条文でどう扱われているのかを探しました。

「4点」も「四点」も0件でした。 保安基準にも、審査事務規程の 7-44/8-44 にも、削除された別添32にもありません。

条文が持っている区分は2つだけです。

区分 別添32での定義 一般的な呼び方
第一種座席ベルト 当該座席の乗車人員が座席の前方に移動することを防止するための座席ベルト いわゆる2点式(原文の表記どおり)
第二種座席ベルト 前方への移動を防止し、かつ、上半身を過度に前傾することを防止するための座席ベルト いわゆる3点式座席ベルト等(原文の表記どおり)

「3点式」の「等」がどこまでを含むのかは書かれていません。4点式が第二種に当たるのかどうかを、条文からは決められないということです。

なので「4点式は通る」とも「通らない」とも書かないでおきます。書けるのは、条文が想定しているのは第一種と第二種の2種類で、点数で分類してはいないというところまでです。実際に付けるなら、施工前に指定工場へ確認してください。

ついでに書いておくと、「プリテンショナ」も「エアバッグ」も 7-44/8-44 には0件です。プリテンショナは別添32の側に定義がありました。いまのベルトに当たり前に付いている機構が、車検の条文には出てこない。これも同じ構図です。

上位に出る記事は、条文の語を使っていなかった

いつものように、検索上位の記事を取ってきて機械で数えました。今回は6本のうち1本が403、1本はSSL証明書が期限切れで取得できなかったので、読めた4本だけを対象にしています。

数えた語 読めた4本のうち何本が触れているか
「7-44」または「8-44」 0本
「審査事務規程」 0本
「従前規定」 0本
「擦過痕」 0本
「適用関係告示」 0本
「第22条の3」 0本

そのうち1本は、「巻き取」を11回、「リトラクタ」を10回使って車検の可否を説明していました。整備の現場ではそう呼ぶので自然な書き方ですし、直す側の記事としては正しいと思います。ただ、条文の側はその語を1件も持っていないので、「保安基準に適合しない」と続けてしまうと、根拠が宙に浮きます。

ここは責める話ではなくて、20年前に削除された文書に語が残っているという事情のほうが原因でしょう。現場の用語だけが生き残って、根拠になる文書のほうが先に消えた。

よくある質問

シートベルトが巻き取らないと、車検に通りませんか

条文に「巻取」という語が無いので、そこを直接の理由にはできません。近いのは 8-44-2(2)②の「容易に、着脱することができ、かつ、長さを調整することができるものであること」と、8-44-2(7)の「傷害を与えるおそれのある損傷、擦過痕等のないものは適合とみなす」の2つです。長さの調整ができない状態なら前者に、ベルトが傷んでいるなら後者に当たります。どこからそう判断されるかは書かれていないので、受ける工場に確認してください。

何年式の車から、シートベルトが必要になりますか

7-44-5(従前規定の適用①)に当たる自動車は装備要件も性能要件も「なし」です。乗用車(軽自動車を除く)なら昭和44年3月31日以前に製作されたものが対象で、それ以外の区分は昭和44年9月30日以前、普通貨物は昭和50年11月30日以前となっています。乗車定員11人以上は昭和62年8月31日(輸入自動車は昭和63年3月31日)以前です。

4点式シートベルトは車検に通りますか

条文から答えが出ません。保安基準にも審査事務規程にも削除された別添32にも「4点」という語が0件で、区分は第一種座席ベルト(いわゆる2点式)と第二種座席ベルト(いわゆる3点式座席ベルト等)の2つだけです。4点式がこの「等」に含まれるかを条文が書いていないので、通る・通らないのどちらも断定できません。施工前に指定工場へ確認するのが確実です。

ベルトが少し擦れているだけでも指摘されますか

8-44-2(7) の文言は「装着者に傷害を与えるおそれのある損傷、擦過痕等のないもの」です。擦過痕があれば即不適合、ではなく「傷害を与えるおそれのある」がかかっています。ただし程度の線引きは書かれていません。全部引き出して、切れ目・ほつれ・極端な毛羽立ちが無いかを自分で見ておくと、当日あわてずに済みます。

車検と新規検査で、見られ方は違いますか

違います。第7章(新規検査など)の 7-44-2 は「性能要件(書面等による審査)」で、取付装置は UNR14-09-S4 の5.、6.及び7.に適合していることを書面で確かめます。第8章(改造等による変更のない使用過程車)の 8-44-2 は「性能要件(視認等による審査)」で、UNR14 も UNR16 も JIS D4604 も本文に出てきません。節の文字数も 40,565字 と 4,595字 で9倍の差があります。

書けなかったこと

  • 協定規則第16号・第14号の本文。現行の 7-44 が別添32の代わりに参照している先ですが、取得できていません。「国連の規則に移った」という構造までしか書けていません
  • 別添32が削除された理由。ヘッダーに「2006.08.25削除」とあること以外、経緯を書いた一次文書を特定できませんでした
  • 巻き取り不良の修理費用と原因。私自身にその経験が無いので書きません。直し方を知りたい場合は整備の記事のほうが役に立ちます
  • 4点式の可否。上に書いたとおり、条文からは決められません

条文を読んでいて面白かったのは、いま当たり前に付いている機構ほど、車検の条文には名前が出てこないことでした。ELR も、プリテンショナも、エアバッグも0件。見るのは、傷んでいないかどうかだけ。装置が高度になるほど、検査は目視に寄っていくのかもしれません。

この記事について

本記事は2026年9月時点の審査事務規程(最終改正:第74次)、道路運送車両の保安基準【2025.6.17】、細目告示および同別添をもとに、条文の記述を確認してまとめたものです。情報提供を目的としており、特定の商品やサービスの勧誘を目的とするものではありません。実際の検査の可否は車両の状態と検査の判断によります。個別の判断については、指定自動車整備事業者または運輸支局にご相談ください。

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