テンパータイヤは80km/hまで、走れるのは100kmまで。同じことを書いている記事を6本落として機械で数えてみたら、そのうち4本が数字だけを書いていて、どの文書に書かれている数字なのかは6本とも1文字も書いていませんでした。
出どころが気になったので、下から順に開いていきました。保安基準(省令)、細目告示、審査事務規程、道路交通法、自動車点検基準、日本自動車タイヤ協会の基準。そのどれにも「80」という数字はありませんでした。
出てきたのは、思っていたよりずっと後ろのほうです。
- 保安基準の全文を検索しても「応急用」は0件だった
- 「応急用スペアタイヤ」を定義しているのは、新型車の側の告示だけ
- 車検の章に書いてあるのは、3行だけだった
- タイヤ協会の基準ですら、数字を書いていない
- 数字が出てくるのは、取扱説明書だった
- 実物の側面には、数字が直接刻まれていた
- 装着中に効かなくなるものが、11個並んでいた
- 混用禁止の、たった1つの例外
- Tタイプと折りたたみ式で、やることが違う
- 雪道で前輪がパンクしたときの手順が、取説に書いてある
- 点検基準にスペアタイヤが出てくるのは、事業用と被牽引だけ
- ホイールを締めるトルクも、取説に書いてある
- 標準タイヤに戻すところまでが、基準に書かれている
- よくある質問
保安基準の全文を検索しても「応急用」は0件だった
道路運送車両の保安基準をe-Govから全文で落として、空白を詰めると111,045字ありました。ここに「応急用」「スペア」「予備走行装置」を投げると、3語とも0件です。
走行装置を扱っているのは第9条で、こちらは全部で335字しかありません。
第九条 自動車の走行装置(空気入ゴムタイヤを除く。)は、堅ろヽうヽで、安全な運行を確保できるものとして、強度等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない。
2 自動車の空気入ゴムタイヤは、堅ろうで、安全な運行を確保できるものとして、強度、滑り止めに係る性能等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない。道路運送車両の保安基準 第9条(走行装置等)第1項・第2項
数字が1つも入っていません。全部「告示で定める基準」に投げています。これは灯火のときと同じ構造で、省令のほうを読んでも具体的な数字は出てこない、という作りです。
ついでに道路交通法と施行令も落として数えました。こちらは「スペア」どころか「タイヤ」という語そのものが両方とも0件です。チェーン規制のときにも同じことを確かめていて、道交法はタイヤの種類を名指ししない書き方で一貫しています。
「応急用スペアタイヤ」を定義しているのは、新型車の側の告示だけ
走行装置の細目告示は3本に分かれています。第11条が型式指定(新型車)、第89条が新規検査など、第167条が使用の過程にある車、つまり車検です。3本に同じ語を投げると、こうなりました。
| 条 | 位置づけ | 字数 | 「応急用」 |
|---|---|---|---|
| 細目告示 第11条 | 型式指定(新型車) | 3,270字 | 2件 |
| 細目告示 第89条 | 新規検査など | 1,703字 | 0件 |
| 細目告示 第167条 | 使用の過程(車検) | 1,292字 | 0件 |
第11条の第5項に、こう書いてあります。長いので該当部だけ引きます。
…応急用予備走行装置(応急用スペアタイヤ(通常の走行条件の車両に装着されることを目的とした空気入ゴムタイヤとは異なり、限定された走行条件の下で応急的に使用されることを目的とした空気入ゴムタイヤをいう。)を備えた走行装置、ホイールの中心と車軸への取付け面との距離が通常使用されるものと異なる走行装置、…)は、協定規則第64号の規則5.及び6.に適合するものでなければならない。
道路運送車両の保安基準の細目を定める告示 第11条第5項(抜粋)
日本語の条文で応急用タイヤの中身を説明しているのは、たぶんここ1か所だけです。読んでいて、うまいこと言うなと思ったのが「限定された走行条件の下で応急的に使用されることを目的とした」という言い方でした。何キロとも何時間とも書かずに、性格だけを定義しています。
そしてここにも速度の数字はありません。協定規則第64号に丸投げしています。この規則の原文は国連欧州経済委員会のサイトにあるのですが、こちらからアクセスすると403が返ってきて読めませんでした。灯火の記事を書いたときも同じ壁に当たっているので、番号までしか書きません。
気になるのは、この第5項が乗っているのが型式指定の章だということです。新しい車を作って型式の指定を受けるときの基準で、いま走っている車を検査するときの基準ではありません。
車検の章に書いてあるのは、3行だけだった
検査を実際にやっている独立行政法人自動車技術総合機構の審査事務規程 7-11、8-11 走行装置(最終改正 第66次)を開きました。2段組のPDFで、左が第7章(新規検査など)、右が第8章(改造のない使用過程車=普通の車検)です。ページを座標で左右に割って別々に抜き出すと、左が9,329字、右が5,531字。
「応急用」は左右とも0件。「協定規則」も左右とも0件。
車検の側でタイヤに求められていることは、8-11-1(2)の3つだけです。
| 号 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ① | 滑り止めの溝が、いずれの部分においても1.6mm以上(二輪は0.8mm) | 細目告示第167条第4項第2号 |
| ② | 亀裂、コード層の露出等の著しい破損がないこと | 同 第3号 |
| ③ | 空気入ゴムタイヤの空気圧が適正であること | 同 第4号 |
3つとも、応急用タイヤを除くとも、応急用タイヤは別扱いにするとも書いていません。ここで一段面白かったのが、元になっている第167条第4項には号が4つあって、第1号だけが引かれていないことでした。第1号は「タイヤに加わる荷重は、当該空気入ゴムタイヤの負荷能力以下であること」、つまりロードインデックスの話です。8-11-1から8-11-3までを検索すると「負荷能力」も「ロードインデックス」も0件で、この語が出てくるのは8-11-4以降の適用関係と従前規定の側だけでした。
ついでに書いておくと、8-11-2と8-11-3は「欠番」です。テスタで測る要件も、取付けの要件も、走行装置には存在しません。クラクションの章でも同じ「欠番」に当たったので、これはこの規程では珍しいことではないようです。
車検の章がタイヤについて言っているのは、結局この3行だけ、というのが読み終わったあとの感想です。応急用タイヤを禁じる条文も、免除する条文も見つかりませんでした。
タイヤ協会の基準ですら、数字を書いていない
行政の文書に無いなら業界の基準だろうと思って、日本自動車タイヤ協会(JATMA)『自動車用タイヤの選定、使用、整備基準 2023 PC編』を落としました。83ページあって、「応急用」が30件出てきます。ここに書いてあるだろうと思って第2部第1章の5-3を開いたら、遵守事項は3つでした。
(1)応急用タイヤの使用は、最寄のタイヤ販売店までの一時的な使用とし、その後は速やかに標準タイヤに戻さなければならない。
(2)応急用タイヤ装着時には、自動車製作者の指定速度を超えて走行してはならない。
(3)積雪又は凍結路で応急用タイヤを使用する場合は、自動車製作者の指示に従うこと。JATMA『自動車用タイヤの選定、使用、整備基準 2023 PC編』第2部第1章 5-3(2026年9月時点)
「自動車製作者の指定速度」。ここでも数字が出てきません。解説側には「その使用に際しては走行距離や速度に制限を設けられています」とだけあって、その制限がいくつなのかは書かれていません。
タイヤメーカー側も同じでした。ブリヂストンの公式ページには「応急用タイヤ、パンク応急修理用具で修理したタイヤおよびランフラットテクノロジー採用タイヤのパンク時の使用に関しては、自動車製作者の指定に従ってください」とあるだけで、速度・距離・空気圧の数値はどれも書かれていませんでした。
ここまでで4段です。省令が告示に投げ、告示が協定規則に投げ、業界基準が自動車メーカーに投げ、タイヤメーカーも自動車メーカーに投げる。誰も自分では数字を言いません。
数字が出てくるのは、取扱説明書だった
最後に残ったのが自動車メーカーです。トヨタのヤリス(2019年12月〜)の取扱説明書は公開されていて、「パンクしたときは(応急用タイヤ装着車)」のページにこうあります。
応急用タイヤを装着しているときは、80km/h以上の速度で走行しないでください。
応急用タイヤは、高速走行に適していないため、思わぬ事故につながるおそれがあります。トヨタ自動車 取扱説明書 ヤリス「応急用タイヤ使用時の速度制限」(2026年9月時点)
ここで初めて80が出てきます。5段目です。
原文をよく見ると、書いてあるのは「80km/h以上の速度で走行しないでください」です。読んだ記事4本は「最高80km/h」「80km/h以下に抑える」という書き方をしていましたが、原文は80km/hちょうども含めて走るなと言っています。1km/hの話なので実務にはほとんど影響しないのですが、数字だけを写して助詞を変えると、意味が1段ずれるという例ではあります。
そして、これはトヨタのヤリスの取扱説明書にそう書いてあるという事実であって、すべての車が80km/hだという意味ではありません。JATMAが「自動車製作者の指定速度」と書いている以上、答えは車ごとにあります。乗っている車の取説を開くのが結論です。
同じページには、こういう記述もありました。
- タイヤの側面に TEMPORARY USE ONLY と書かれています。応急用にのみ使用してください。
- お客様の車専用になっているため、他の車には使用しないでください。
- 同時に2つ以上の応急用タイヤを使用しないでください。
- 摩耗限度(トレッドウェアインジケーターまたはスリップサイン)をこえて使用しないでください。
- 標準タイヤ装着時にくらべ車高が低くなっています。段差を乗りこえるときは注意してください。
摩耗限度の行が出てくるということは、応急用タイヤにも1.6mmの話がそのまま乗ります。溝の測り方は別の記事に書いたので、そちらに送ります。
実物の側面には、数字が直接刻まれていた
ここまで書いたあとで、応急用タイヤを実際に履いている車の写真を見つけました。パブリックドメイン(CC0)で公開されているもので、サイドウォールの文字がはっきり読めます。

読める文字を並べます。
- サイドウォールの成型文字: MAX VEHICLE SPEED 50 mph – 80 km/h
- ハブに貼られた黄色いステッカー: MAX 50 mph / MAX 80 km/h / CAUTION FOR TEMPORARY USE ONLY(スウェーデン語とドイツ語も併記)
- サイズ表示: T 125/80 R 17 99M
冒頭で「80はどこにも書いていない」と書きましたが、正確ではありませんでした。タイヤそのものには、彫ってあります。行政の文書と業界基準を全部たどっても出てこない数字が、モノの側面には最初から刻まれている、という話でした。
ここが一番面白いところなのですが、このタイヤは同じ側面に2つの速度を持っています。末尾の 99M の M が速度記号で、JATMAの【表2】「速度記号と速度(抜粋)」によれば M=130km/h です。
| 速度記号 | L | M | N | P | Q | R | S | T | U | H | V | W | Y |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 速度(km/h) | 120 | 130 | 140 | 150 | 160 | 170 | 180 | 190 | 200 | 210 | 240 | 270 | 300 |
出典: JATMA『自動車用タイヤの選定、使用、整備基準 2023 PC編』【表2】速度記号と速度(抜粋)(2026年9月時点)
つまりタイヤ単体としては130km/hまで走れる記号が付いていて、その隣に「車としては80km/hまで」と彫ってあるということです。制限しているのはタイヤの性能ではなく、細いタイヤを1本だけ履いた車の挙動のほうだ、と読めます。トヨタの取説で11個のシステム名が並んでいたのと、たぶん同じ話をしています。
JATMAの用語の定義にある「Tタイプ応急用タイヤの呼び方」も、タイヤの用途記号・断面幅・偏平比・タイヤ構造記号(バイアス)・リム径・ロードインデックス(710kg)・速度記号(130km/h)という並びで示されていて、写真の「T 125/80 R 17 99M」と構造がそのまま一致します。先頭のTが用途記号です。
なお、JATMAはこうも書いています。「タイヤの速度能力を超えて使用してはならない。また、速度能力以内であっても法定速度を超えて使用してはならない」。130km/hの記号が付いていても、それは日本の道路で出していい速度とは何の関係もありません。
装着中に効かなくなるものが、11個並んでいた
同じページで一番読み応えがあったのはここでした。応急用タイヤを装着していると「正確な車両速度が検出できない場合があり、次のシステムが正常に作動しなくなるおそれがあります」として、名前が並んでいます。
ABS、ブレーキアシスト、VSC、オートマチックハイビーム、レーダークルーズコントロール、TRC、EPS、PCS(プリクラッシュセーフティ)、LTA(レーントレーシングアシスト)、PKSB(パーキングサポートブレーキ)、BSM。11個です。
さらにAWDシステムについては「性能が十分に発揮できないばかりでなく、駆動系部品に悪影響を与えるおそれがあります」と、一段強い書き方になっていました。
正直なところ、80km/hという数字よりこちらのほうが効きました。応急用タイヤは標準タイヤより小さいので、その車輪だけ回転数が変わります。速度を車輪から拾っているシステムは、そこで前提が崩れます。理屈としては当たり前なのですが、名前が11個並んでいるのを見ると、印象がだいぶ違います。
私が乗り換えたG400dは4WDで、車重が2,520kgあります。AWDの行を読んだときに真っ先に思い浮かんだのはこの車でした。
混用禁止の、たった1つの例外
JATMAの第1部にはタイヤの選定基準があって、こう書かれています。
(4)サイズ、種類、構造、カテゴリーの異なるタイヤを同一車軸に使用すると、タイヤ性能が異なるため、事故に繋がるおそれがあるので混用しないこと。但し、応急用タイヤはこの規定を適用しない。
JATMA『自動車用タイヤの選定、使用、整備基準 2023 PC編』第1部第1章(2026年9月時点)
同じ車軸に違うタイヤを付けるな、という禁止に、応急用タイヤだけ例外が付いています。当たり前といえば当たり前で、これを認めないとパンクしたときに交換できません。ただ、明文で例外にしているのはここだけでした。
ついでに前の項の(3)も引いておくと、「全車輪とも、同一のサイズ、種類、構造、カテゴリーのタイヤを選定すること」とあります。解説側に語の定義まで書かれていて、サイズにはロードインデックスと速度記号が含まれ、種類とは乗用車用タイヤ等、構造とはラジアル・バイアス等、カテゴリーとは夏用タイヤ・冬用タイヤ等をいう、とされています。挙がっているのはこの4つで、銘柄は入っていません。
これは私にとって都合のいい話でもあります。C43のときに、前輪の2本だけを純正のコンチネンタルからミシュランのPilot Sport 4に替えました。20,000km手前です。サイズは同じで、銘柄だけが前後で違う状態でした。条文が並べている4項目に銘柄が入っていないというのは、今回この基準を開いて分かったことです。
もう1つ、応急用タイヤはローテーションの対象外です。「長期間の使用又は摩耗を均等化する位置交換の対象としないで下さい」と書かれています。積んであるだけのものを4本と一緒に回すな、ということですね。
Tタイプと折りたたみ式で、やることが違う
サジェストに「テンパータイヤ 空気圧」が出てくるので調べたら、ここは種類で答えが変わりました。
| Tタイプ | 折りたたみ式 | |
|---|---|---|
| 空気圧 | 420kPaに調整する | 空気充てんの方法は自動車製作者の指示に従う |
| 格納するとき | 420kPaに調整して格納 | 空気を抜き0kPaにして折りたたみ、バルブコアとバルブキャップを取付けて格納 |
| 点検 | スペアタイヤの空気圧も最低1ヶ月に1度は点検(共通) | それに加えて少なくとも1年に1回は空気を充てんし、その機能(安全バルブの動作を含む)を点検 |
| 修理 | 推奨しない | 修理して使用してはならない |
出典: JATMA『自動車用タイヤの選定、使用、整備基準 2023 PC編』 第2部第1章・第3部第1章(2026年9月時点)
420kPaというのは、乗用車の標準タイヤが概ね230〜250kPaあたりで指定されるのに比べるとかなり高い数字です。そしてJATMAの基準は、スペアの空気圧も最低1ヶ月に1度点検せよと書いています。トランクに積んだまま何年も触らない、というのが実態に近いと思うので、今回読んだ中で、基準と実態がいちばん離れているのはここだと思いました。
折りたたみ式のほうは、格納時に空気が入っていません。使うときにその場で入れることになるので、車載の充てん器具が生きているかどうかが効いてきます。年1回の点検を求めているのも、たぶんそこです。
高い圧まで入る電動空気入れ(420kPa=約4.2barを入れられるもの)
標準タイヤの230kPa前後しか想定していない安価なポンプだと、Tタイプの420kPaに届かないことがあります。上限の表記(kPa / bar / psi)を先に見てから選ぶところです。私がこれを使っているという話ではなく、条文の420kPaに合う道具はどれか、という話です。
雪道で前輪がパンクしたときの手順が、取説に書いてある
これは読んでいて一番「へえ」と思ったところです。トヨタの同じページに、雪道・凍結路で前輪がパンクしたときの手順が3行で書かれています。
- 後輪を応急用タイヤに交換する
- パンクした前輪をはずした後輪に交換する
- タイヤチェーンを前輪に装着する
つまり、パンクした前輪の位置に応急用タイヤを付けるのではなく、いったん後輪と入れ替えて、応急用タイヤを後ろに回すという段取りです。理由は同じページの注意にありました。
応急用タイヤには、タイヤチェーンを装着しないでください。タイヤチェーンが車体にあたり、車を損傷したり走行に悪影響をおよぼしたりするおそれがあります。
トヨタ自動車 取扱説明書 ヤリス「タイヤチェーンの装着について」(2026年9月時点)
応急用タイヤにはチェーンを巻けない。だから雪道ではチェーンを巻ける標準タイヤを前に持ってくる。手順だけを読むと回りくどく見えますが、注意書きと突き合わせると筋が通ります。JATMAの5-3(3)が「積雪又は凍結路で応急用タイヤを使用する場合は、自動車製作者の指示に従うこと」と書いているのは、たぶんこういう手順のことです。
私がC43のころに使っていたのは布製のチェーンで、パンクした場面の話ではありません。ただ、雪の日に路肩でタイヤを3回付け替えると考えると、正直あまりやりたくない作業です。チェーン規制の対象になる区間に入る前に、タイヤの状態を見ておくほうが早いという、身も蓋もない結論になります。
高速道路のロードサービス出動理由の1位はタイヤで、42.27%です。この数字はJAFの2024年度のデータを自分で集計した別記事に置いてあります。一般道路では1位がバッテリーで、タイヤは2位。高速に上がった瞬間に1位が入れ替わるのは、集計していて一番意外だったところでした。
点検基準にスペアタイヤが出てくるのは、事業用と被牽引だけ
「スペアタイヤは義務なのか」という疑問がサジェストに出ています。保安基準に0件だったので搭載を求める条文は無い、というのがここまでの答えですが、もう1つ自動車点検基準という省令があります。日常点検と定期点検の項目を決めている表です。
別表が9つあるので全部数えました。
| 別表 | 対象 | 「スペアタイヤ」 |
|---|---|---|
| 別表第1(日常点検) | 事業用自動車、自家用貨物自動車等 | 0件 |
| 別表第2(日常点検) | 自家用乗用自動車等 | 0件 |
| 別表第3(定期点検) | 事業用自動車等 | 2件 |
| 別表第4(定期点検) | 被牽引自動車 | 2件 |
| 別表第5(定期点検) | 自家用貨物自動車等 | 0件 |
| 別表第5の2 | 有償で貸し渡す自家用二輪自動車等 | 0件 |
| 別表第6(定期点検・1年ごと/2年ごと) | 自家用乗用自動車等 | 0件 |
| 別表第7(定期点検) | 二輪自動車 | 0件 |
| 別表第8 | 劣化又は摩耗により生ずる状態 | 0件 |
出てくるのは別表第3と別表第4だけで、項目は「スペアタイヤ取付装置の緩み、がた及び損傷」と「スペアタイヤの取付状態」の2つです。自家用乗用車の表には、日常点検にも1年点検にも2年点検にも、スペアタイヤという語が一度も出てきません。
トラックやトレーラーの表にだけあるのは、落下すると後続車に当たるからだと思います(ここは条文に理由が書かれていないので、私の読みです)。自家用乗用車のスペアはトランクや床下に収まっているので、点検の対象として名前が挙がらない、という整理なのだろうと読みました。
なお、サジェストには「スペアタイヤ 廃止 いつから」という語も出ています。これは調べたのですが、いつからという年を示す一次ソースが見つかりませんでしたので、ここでは書きません。パンク応急修理用具が積まれている車が増えているのは事実ですが、それを決めた通達や告示は見つけられていません。
ホイールを締めるトルクも、取説に書いてある
応急用タイヤを付けたあとの締め付けについても、トヨタの取説は数字を出しています。103N・m(1050kgf・cm)です。「右の番号順で2、3度に分けて締め付ける」という手順も添えられていました。
路肩で十字レンチを使うと、この数字は出せません。足で踏んで締めれば足りるだろう、というのが実際のところだと思いますが、家に帰ってから測り直せるのが本来の姿ではあります。ここも車ごとに違う数字なので、自分の車の取説を見るところです。
締め付けトルクを数字で合わせるなら(103N・mが測れるレンジのもの)
乗用車のホイールは概ね90〜120N・mのレンジに収まるので、そこを含むものを選ぶことになります。ただし路肩の応急作業でこれを持ち出す場面はまず無く、使うのは戻したあとの確認のときです。私は整備工場に任せているので、これを常用しているわけではありません。
標準タイヤに戻すところまでが、基準に書かれている
JATMAの5-3(1)をもう一度引きます。「応急用タイヤの使用は、最寄のタイヤ販売店までの一時的な使用とし、その後は速やかに標準タイヤに戻さなければならない」。トヨタの取説も「できるだけ早く通常のタイヤと交換してください」です。
2つの文書が同じことを言っているのは、この行だけでした。速度も距離も食い違うか、書いていないかのどちらかなのに、「早く戻せ」だけは揃っています。
戻すときに必要なのは、パンクした1本ぶんです。同じ銘柄・同じサイズが手に入るかどうかと、片側だけ新品にしていいのかという判断が出てきます。
「1本だけ」を探すのが、意外と面倒なところ
4本まとめて替えるときは店に行けば済みますが、パンクした1本だけとなると、同じ銘柄・同じサイズの在庫があるかを先に確認しないと動けません。応急用タイヤで店を何軒か回るのは、一番やりたくない移動です。
TIREHOOD(タイヤフッド)の公式サイトによると、タイヤの在庫と価格を見るのと、取付店の予約が同じ画面でできて、タイヤは店舗へ直送されるとされています。家で在庫を確認してから1軒だけ行く、という順番にできます。
ただし予約は最短4営業日後からとされているので、いま路肩にいる人の当日の解決にはなりません。使うとしたら「戻すのをどこでやるか」を決める場面です。
※ 取扱銘柄・サイズ・価格・工賃・取付店の対応可否・予約可能日は変動します。最新の内容は公式サイトでご確認ください(2026年9月時点)。
なお、パンクした1本を修理して使う場合について、JATMAは別の項でこう書いています。「100km/hを超える速度能力を持つタイヤでも、修理したタイヤは100km/hを超えて使用してはならない」「修理したタイヤは前輪に使用しないこと」。修理という選択肢を取ると、今度はそちらに制限が付きます。
ランフラットタイヤについても同じ第2部に項があって、こちらは「走行速度及び走行距離については自動車製作者の指示に従うこと」でした。私は夏タイヤの記事でP ZEROのランフラットに触れて「仮にパンクしても一定のスピードで、一定の距離を走行して安全なところまで行けます」と書いたのですが、その「一定」の中身は、やはり自動車メーカー側にあるということですね。書いた当時はそこまで確かめていませんでした。
よくある質問
テンパータイヤを付けたまま車検は受けられますか?
条文の上では、応急用タイヤを禁じる規定も、免除する規定も見つかりませんでした。審査事務規程 8-11 に「応急用」は0件です。車検の章がタイヤについて求めているのは①溝1.6mm以上 ②亀裂・コード層の露出等の著しい破損がないこと ③空気圧が適正であること、の3つで、装着されているタイヤがこれを満たすかどうかを見ることになります。ただしJATMAもメーカーも「速やかに標準タイヤに戻す」ことを求めているので、条文がどうであれ戻してから受けるのが筋だと思います。
走行できるのは100kmまで、という数字はどこの数字ですか?
今回開いた10本の一次資料の中には見つけられませんでした。JATMAは距離の数値を書いておらず、トヨタの当該ページにも距離の記載がありません(「走行距離」で検索して0件でした)。距離の制限がある車もあると思いますが、その場合も出どころは自動車メーカーの指定です。取扱説明書を見てください。
スペアタイヤは積んでいないといけませんか?
保安基準の全文111,045字に「スペア」は0件で、搭載を求める条文は見つかりませんでした。自動車点検基準でも、スペアタイヤの点検項目があるのは事業用自動車等(別表第3)と被牽引自動車(別表第4)だけで、自家用乗用車の別表第2・別表第6には出てきません。
応急用タイヤの空気圧はいくつに入れますか?
JATMAはTタイプについて420kPaと書いています。折りたたみ式は「自動車製作者の指示に従うこと」です。どちらも、スペアの空気圧は最低1ヶ月に1度点検するようにと書かれています。トランクに積んだままになりがちなところですが、使う日は突然来ます。
応急用タイヤを2本同時に使ってもいいですか?
トヨタの取説には「同時に2つ以上の応急用タイヤを使用しないでください」とあります。JATMAの側には本数についての記述を見つけられませんでした。ここも自動車メーカーの指定に従うところです。
読み終わって残ったこと
保安基準に0件、車検の告示に0件、審査事務規程に0件、道交法に0件。タイヤ協会は「自動車製作者の指定速度」、タイヤメーカーも「自動車製作者の指定」。取扱説明書で、やっと80km/hが出てきました。そして実物のタイヤには、最初から彫ってありました。
競合6本が数字だけを書いていたのは、たぶん不親切だからではなくて、出どころを辿ると自分の車の取説とタイヤの側面に着地してしまって、記事としては終わってしまうからだと思います。それでも、どこにも書いていない数字ではなく、どこに書いてある数字なのかが分かると、扱いが変わります。ヤリスは80km/h。私の車は、私が取説を見るしかありません。
いちばん実務に効いたのは、80という数字より11個のシステム名でした。ABSとVSCとPCSが揃って挙がっているのを見ると、高速に乗らないという判断が自然に出てきます。








