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車中泊でエンジンをかけたまま寝てよいのか|条例は「義務」だが、罰則は無かった

夜の路上に停まっている車列。車中泊でエンジンをかけたままにしてよいのかを扱う記事のアイキャッチ Car|車
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車中泊まわりのグッズは、このサイトで7本ほど書いてきました。マット、ポータブル電源、インバーター、ミニ冷蔵庫、湯沸かし器、バーナー、ラゲッジシート。どれも「何を積むか」の話です。

ところが検索されている中身を見ると、モノより手前で止まっている人のほうが多い。「車中泊 エンジンかけっぱなし」「車中泊 アイドリング ok」「車中泊 一酸化炭素中毒」。積む物より先に、エンジンをどうするかで迷っているわけです。

そこで上位の記事を一通り読んでみたのですが、どれも「条例違反になる可能性があります」「一酸化炭素中毒の危険があります」を並べて終わっていました。この2つは、まったく別の話です。 片方は他人に対する迷惑の話で、もう片方は自分が死ぬかどうかの話。おまけに、条例と書いてあるのに条文まで辿った記事が1本も見つかりませんでした。

なので条例のほうは条文を開き、危険のほうはJAFの実験を見に行きました。分けて書きます。

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そもそも、アイドリングを禁じているのは道路交通法ではない

最初に前提をひとつ。「アイドリング禁止」は道路交通法の話ではありません。都道府県ごとの、環境系の条例です。

東京都なら「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」。第五十二条にこう書かれています。

(自動車等を運転する者の義務)第五十二条 自動車等を運転する者は、自動車等を駐車し、又は停車するときは、当該自動車等の原動機の停止(以下「アイドリング・ストップ」という。)を行わなければならない。ただし、規則で定める場合はこの限りでない。

出典: 東京都例規集「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」

「行わなければならない」なので、努力義務ではなく義務です。しかも対象は「駐車し、又は停車するとき」で、寝ているかどうかは条件に入っていません。 コンビニの駐車場で5分待つのも、車中泊で6時間かけっぱなしにするのも、条文上は同じ扱いになります。

ここまではだいたいの記事に書いてある。問題はその先です。

守らなかったらどうなるのかを、条例の中で追いかけてみる

義務だと書いてあるなら、破ったときの扱いがどこかに書いてあるはずです。同じ条例の中を追いました。

まず第五十六条。

(勧告)第五十六条 知事は、第五十二条から第五十四条までの規定に違反している者があると認めるときは、その者に対し、必要な措置をとることを勧告することができる。

いきなり罰ではなく、まず勧告です。そしてその勧告に従わなかった場合は、第百五十六条(違反者の公表)の第1項に第五十六条の勧告が並んでいて、正当な理由なく従わなかったときは公表することができると書かれています。氏名などが公表されうる、ということです。

では罰金はあるのか。条例の第七章が罰則で、第百五十八条から第百六十五条までがそれにあたります。全部読みましたが、第五十二条は一度も出てきません。

段階 中身
義務 第五十二条 駐車・停車のときは原動機を停止する
勧告 第五十六条 知事が「必要な措置をとること」を勧告できる
公表 第百五十六条 第1項 勧告に正当な理由なく従わないとき、公表できる
罰則 第七章(第百五十八条〜第百六十五条) 第五十二条の記載なし=罰金・科料はない

埼玉県も同じ形でした。埼玉県生活環境保全条例で駐停車時のアイドリング・ストップを義務付けたうえで、県の公式ページに「罰則はありません」「指導に従わない場合は勧告・公表の対象となります」と明記されています。

ただ、罰則が無いから好きにしてよい、という読み方はしないほうがいいと思っています。 義務は義務として書かれているし、公表という制度までは用意されている。車中泊の一件で公表まで行った例を私は見つけられませんでしたが、「見つからなかった」は「起きない」とは別ですし、そもそも隣で寝ている人からするとエンジン音は普通にうるさい。

例外は条文に書かれていない。「規則で定める場合」に丸投げされている

さっきの第五十二条、末尾に「ただし、規則で定める場合はこの限りでない」とありました。つまり例外の中身は、条文を読んでも一切分かりません。

これは冬用タイヤの記事で道路交通法第71条第6号を開いたときとまったく同じ構造でした。義務は法令の本体に書き、中身は下位のルールに預ける。

で、その例外がどうなっているか。東京都環境局のFAQには、こう書かれています。

病弱者、障害者等が、身体を健全な状態に維持する温度設定を必要とするが、当該自動車以外に休養室等の確保が困難な場合

熱中症による生命の危険が生じるおそれがある中で(略)必要な時間に限るとともに、近隣住民等に十分配慮した場所とする必要があります

出典: 東京都環境局「アイドリング よくあるご質問」

熱中症で命が危ないなら例外になりうる。 ただし「必要な時間に限る」「近隣住民等に十分配慮した場所」という条件が付いています。夏に涼しく寝たいからずっとかけておく、はここには収まりません。

面白かったのは千葉県で、除外の書き方が東京と違いました。千葉県環境保全条例の説明では、除外のひとつが「自動車に登載された付属装置の動力として使用する場合(運転者室などの冷暖房を除く)」となっています。

かっこの中が効いています。冷凍車の冷凍機を回すのは除外だが、運転席の冷暖房は除外に含まれない。 車中泊でいちばんやりたいこと、つまりエアコンのためのアイドリングが、名指しで除外から外れているわけです。

都県 義務 エアコン目的の扱い 罰則
東京都 第五十二条 熱中症の生命の危険などは例外になりうる。ただし必要な時間に限る なし(勧告→公表)
千葉県 千葉県環境保全条例 運転者室などの冷暖房は、除外に含まれないと明記 公式ページに記載なし
埼玉県 埼玉県生活環境保全条例 除外に挙がっているのは貨物の冷凍冷蔵設備など なし(勧告・公表)

同じことをしていても、どこに停めているかで条例上の扱いが変わるということです。全国共通のルールだと思って読むと外します。

なお3つとも、除外に「交通の混雑」「人の乗降」「信号待ち」は共通で入っています。走行中に信号で止まるのは当然ながら対象外です。

泊まってよい場所かどうかは、条例とはまったく別に決まっている

エンジンの話とは切り離して、そもそもそこに停めて寝ていいのか。いちばん使われる道の駅について、国土交通省が文章で出しています。

「道の駅」は、ドライバーなど皆さんが交通事故防止のため24時間利用できる休憩施設である

運転の途中で疲労回復のために車内で仮眠をとるなどしていただくことはかまいません。

駐車場など公共空間における宿泊利用は基本的にご遠慮いただいています。

出典: 国土交通省 道路:道の相談室「休憩施設『道の駅』」

仮眠はかまわない、宿泊はご遠慮。 これが公式の線引きです。

そして厄介なのは、この2つを分ける時間の基準がどこにも書かれていないこと。何時間までが仮眠で何時間からが宿泊なのか、国交省は数字を出していません。テーブルと椅子を出して外で過ごせば宿泊寄りに見えるし、車内で静かに休んでいれば仮眠寄りに見える、という程度の話になります。

道の駅ごとに車中泊を明示的に断っているところも、逆に専用の区画を用意しているところもあります。行き先が決まっているなら、その道の駅の公式サイトを見るのが一番早いです。

高速道路のSA・PAについては、NEXCO各社が施設ごとに禁止行為を定めています。ただ今回、NEXCO西日本のPDFは開けたものの本文の文字が抽出できず、原文を確認できませんでした。 確認できていないものを条文のように書くわけにいかないので、ここでは「各社の定めがあるので利用前に確認を」に留めます。

エンジンを切れと言われる本当の理由は、条例のほうではない

ここからが本題です。条例は最悪でも公表止まりですが、もう片方は取り返しがつきません。

JAFが2015年2月16日に北海道旭川市で行った実験があります。エンジンをかけた車が雪に埋まった状態で、車内の一酸化炭素濃度を測ったものです。

  • マフラーの周りを除雪しなかった場合 … 開始直後から上がり始め、16分後に400ppm(短時間暴露限度)。その6分後には測定上限の1,000ppmに到達
  • マフラーの周りを除雪した場合 … 「終始COはほとんど検知されなかった」
  • 窓を約5cm開けた場合 … 5分以内に100ppm台まで上がり、40分頃に400ppm、その後800ppmまで上昇

出典はJAFユーザーテスト「クルマが雪で埋まった場合、CO中毒に注意」です。

読みどころは3つ目だと思っています。窓を5cm開けても止まりませんでした。 「少し開けておけば大丈夫」は、この実験の中では成立していない。JAFは、車体の下に溜まった排ガスが車体の隙間から車内に入ってくることを、発煙筒を使って確認しています。エアコンを外気導入にするか内気循環にするかという次元の話ではないわけです。

そして1つ目と2つ目の差がすべてです。同じ雪、同じエンジン始動状態でも、マフラーの周りが埋まっているかどうかで結果が正反対になっている。 つまり危険の正体は「エンジンをかけたこと」そのものではなく、排気の出口が塞がっていることにあります。

これは雪だけの話ではありません。壁にぴったり寄せて後ろ向きに停める、落ち葉や土手にマフラーを突っ込む形で停める、傾斜地で排気が車体の下に回る。雪が無い季節でも条件は作れてしまいます。

濃度は目で見えないので、心配なら測るしかありません。車中泊向けに小型のものが出ています。

一酸化炭素チェッカー

気になる点も書いておくと、この手の機器は警報が鳴った時点で既に濃度が上がっているわけで、上の実験のように16分で400ppmまで行く条件だと、鳴ってから落ち着いて対処できる時間がどれだけ残るかは分かりません。排気の出口を塞がない停め方をする方が先で、チェッカーはその上に足す備えという順序だと思います。

立ち往生した車の中では、1時間で何が起きたか

もう一つ、条件の違う実験があります。JAFが2021年2月17日から26日にかけて山形県で行ったもので、こちらは大雪の立ち往生を想定し、ドアハンドルの高さまで雪に埋めた状態を60分続けています。エアコンは25℃・内気循環。

ガソリン車

  • 一酸化炭素 … 1分24秒で警報値の50ppmに到達。18〜50分は測定上限の300ppmのまま
  • 酸素濃度 … 13分14秒で警報値の18%まで低下し、35分で13.2%まで下がった

電気自動車

  • 二酸化炭素は0.1%を超えなかった

出典はJAFユーザーテスト「大雪による車の立ち往生〜車内環境の変化〜」です。

2015年の実験と数字が違うのは、埋まり方も測定器の上限も別だからです。ここを混ぜて「車中泊は◯分で危険」と一本の数字にまとめている記事を見かけますが、条件が違うものを平均しても意味がありません。読むべきは絶対値より、1分24秒という立ち上がりの速さと、酸素まで一緒に減っていくという2点だと思います。

ついでに言うと、ネットでよく見る「アイドリングは2時間まで」という数字、出どころを探しましたが一次情報にたどり着けませんでした。 根拠が辿れない数字なので、ここでは採用していません。

ひとつ注意しておくと、この2つの実験はどちらも雪の立ち往生を想定したもので、車中泊そのものの実験ではありません。 ただ「マフラーが塞がる」という条件だけを取り出せば、状況は車中泊でも作れます。そこが重なるので引きました。

エンジンを切って過ごす前提にすると、装備の話に戻ってくる

条例も危険も、結論としては同じ方向を指しています。止めて過ごせる装備にしておくのがいちばん面倒がない。

ここから先はモノの話なので、既に書いた記事に譲ります。

そのうえで、エンジンを止める前提だと効いてくるのが断熱です。夏はガラス面から入る熱、冬は同じ場所から逃げる熱で、どちらもガラスが弱点になります。

車 サンシェード 断熱

冬はこれに寝具側の対策が加わります。エンジンを切ると暖房も止まるので、単純に着込むか、寝袋の性能で持たせるかになります。

寝袋 車中泊 冬

雪の時期に出かけるなら、そもそも現地に着くための足まわりが先です。行き先の平年値を並べてみると、装備を切り替える時期は同じ関東発でも1〜2ヶ月ずれました。

よくある質問

罰則が無いなら、エンジンをかけっぱなしでも問題ないのでは?

条例上は義務として書かれており、東京都の場合は第五十六条の勧告、従わなければ第百五十六条による公表という順序が用意されています。罰金が無いことと、やってよいことは別です。加えて、この記事の後半で扱ったとおり、条例より深刻なのは排気が車内に回る側の問題です。

夏、暑くて眠れないときはどうすればよいですか?

東京都のFAQには、熱中症による生命の危険が生じるおそれがある場合が例外として挙げられています。ただし「必要な時間に限る」「近隣住民等に十分配慮した場所とする」という条件付きです。恒常的に朝までかけておく使い方は想定されていません。千葉県のように、運転者室の冷暖房を除外から明示的に外している県もあります。

窓を少し開けておけば、一酸化炭素は大丈夫ですか?

JAFが2015年に行った実験では、窓を約5cm開けた条件でも5分以内に100ppm台まで上がり、40分頃に400ppm、その後800ppmまで上昇しています。開けたから安全、という結果にはなっていません。危険の分かれ目は窓ではなく、マフラーの周りが塞がっているかどうかでした。

道の駅で仮眠をとるのは、ルール違反になりますか?

国土交通省は「運転の途中で疲労回復のために車内で仮眠をとるなどしていただくことはかまいません」としています。一方で「駐車場など公共空間における宿泊利用は基本的にご遠慮いただいています」とも書かれています。仮眠と宿泊を分ける時間の基準は示されていないため、施設ごとの案内を確認するのが確実です。

電気自動車なら一酸化炭素の心配はありませんか?

JAFが2021年に行った同条件の試験では、電気自動車の車内で二酸化炭素は0.1%を超えませんでした。ただしこの試験で見ているのは車内環境の変化であって、寒冷地での電力の持ちなど別の論点までは扱われていません。

まとめ

  • アイドリングを禁じているのは道路交通法ではなく、都道府県ごとの条例
  • 東京都は第五十二条で義務としているが、罰則の章に第五十二条は無い。勧告(第五十六条)→ 公表(第百五十六条)で終わる
  • 例外は条文に書かれておらず「規則で定める場合」に預けられている。中身は県ごとに違う
  • 千葉県は除外から運転者室などの冷暖房を明示的に外している
  • 道の駅は国交省が「仮眠はかまわない・宿泊はご遠慮」としている。時間の基準は示されていない
  • 危険の分かれ目は窓でもエアコンの設定でもなく、マフラーの周りが塞がっているかどうか

条例のほうは、正直そこまで身構える話ではありませんでした。気をつけるべきは排気の出口です。

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